2016年 07月 28日
不競 平成28年(ネ)10028号 トレーニング箸事件(控訴審 ) |
◆幼児用のトレーニング箸の形態が不競法2条1項1号の商品等表示として保護されるかが争いとなった事件の控訴審。控訴棄却、商品等表示でない。
【商品等表示、2条1項1号、機能に由来する不可避的形態、保護範囲、エジソンのお箸、アメリカンフットボール事件最高裁判例】
◆知財高裁 平成28年(ネ)10028号 (高部裁判長)
(商品該当性の規範)
「 ⑴ 商品の形態の「商品等表示」該当性について
ア 不競法2条1項1号の趣旨は,周知な商品等表示の有する出所表示機能を保護するため,周知な商品等表示に化体された他人の営業上の信用を自己のものと誤認混同させて顧客を獲得する行為を防止することにより,同法の目的である事業者間の公正な競争を確保することにある。
同法2条1項1号所定の「商品等表示」とは,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものではないが,商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有するに至る場合がある。そして,このように商品の形態自体が特定の出所を表示する二次的意味を有し,「商品等表示」に該当するためには,①商品の形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっていること(周知性)を要するものと解される。
イ もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合,そのような商品の形態自体が「商品等表示」に当たるとすると,当該形態を有する商品の販売が一切禁止されることになり,結果的に,特許権等の工業所有権制度によることなく,当該形態によって実現される技術的な機能及び効用を奏する商品の販売を特定の事業者に独占させることにつながり,しかも,不正競争行為の禁止には期間制限が設けられていないことから,上記独占状態が事実上永続することなる。したがって,上記のような商品の形態に「商品等表示」該当性を認めると,不競法2条1項1号の趣旨である周知な商品等表示の有する出所表示機能の保護にとどまらず,商品の技術的な機能及び効用を第三者が商品として利用することまで許されなくなり,それは,当該商品についての事業者間の公正な競争を制約することにほかならず,かえって,不競法の目的に反する結果を招くことになる。
したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来する場合には,「商品等表示」に該当しないと解するのが相当である。
ウ 他方,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても,他の形態を選択する余地がある場合は,そのような商品の形態が「商品等表示」に当たるとして同形態を有する商品の販売が禁止されても,他の形態に変更することにより同一の機能及び効能を奏する商品を販売することは可能であり,前記イのような弊害は生じない。
したがって,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来するものであっても,他の形態を選択する余地がある場合は,当該商品の形態につき,前記アの特別顕著性及び周知性が認められれば,「商品等表示」に該当し得る。もっとも,商品の形態が商品の技術的な機能及び効用に由来する場合,同形態が客観的に他の同種商品とは異なる顕著な特徴を有していることはまれであり,同種商品の中でありふれたものとして特別顕著性が否定されることが多いものと思われる。 」
(知財高裁4部高部裁判長、 平成28年7月27日)
(当てはめ)
「… ⑶ 原告商品形態の「商品等表示」該当性について
前記⑵アによれば,原告商品形態が,一般に正しいとされる持ち方で箸を使用する練習をさせる練習用箸という原告商品の技術的な機能及び効用に由来するものであることは,明らかである。一方,前記⑵イによれば,原告商品形態が,上記機能及び効用を実現するために他の形態を選択する余地のない不可避的な構成に由来するものということはできない。しかし,前記⑵ウに鑑みると,原告商品形態は,同種商品の中でありふれたものというべきであり,特別顕著性を認めることはできない。 」
◆東京地裁 平成26(ワ)29417号
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/686/085686_hanrei.pdf
「 争点(2)(原告商品の形態が「商品等表示」に当たるか)について (1) 原告は,原告商品形態が,商品等表示に当たると主張する。 不競法2条1項1号の「商品等表示」は,「人の業務に係る氏名,商号,商標,標章,商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」をいう。商品の形態は,商標等とは異なり,本来的には商品の出所を表示する目的を有するものでないが,①商品の形態が客観的にほかの同種商品とは異なる顕著な特徴を有しており(特別顕著性),かつ,②その形態が特定の事業者によって長期間独占的に使用され,又は極めて強力な宣伝広告や爆発的な販売実績等により,需要者においてその形態を有する商品が特定の事業者の出所を表示するものとして周知になっている場合(周知性)には,商品の形態自体が商品等表示に該当する場合もあると解される。 もっとも,実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態についてまで,商品等表示として保護を与えると,同等の機能を有する複数の商品間の自由な競争を阻害する結果となり相当でないから,実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態については商品等表示に該当しないというべきである。 (2) そこで検討するに,原告商品は,親指,人差し指及び中指をリングに挿入して箸の使用に適した位置で固定するという機能並びに2本の箸を連結するという機能を有しており,これにより,箸の使用に習熟していない者が,箸を安定させて,かつ,正しいとされる指の位置で箸を使用する練習ができるという作用効果を有するものであるといえる。そして,正しいとされる箸の持ち方を前提にすれば,2本の箸に対してあるべき親指,人差し指及び中指の位置関係は自ずと決まっているから,それらの指の位置関係を正しい位置に固定するために指を通すリングを使用しようとすると,その位置関係及び箸に対する傾きなども自ずと定まっているものと認められる。 そうすると,原告商品形態のうち,「一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分において連結されている連結箸」であることは,2本の箸を連結するという機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であり,また,連結部位が一対の箸が上端部又は中央より上端側の部分であることは,箸として使用することからすれば当然の選択といえる。次に,「1本の箸は人差指と中指をそれぞれ入れる二つのリングを有し,他方の1本は親指を入れる一つのリングを有する」ことは,親指,人差し指及び中指をリングに挿入することで正しいとされる箸の持ち方に適した位置で固定するという機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態であると認められる。 以上のとおり,原告商品形態は,全体として,指にリングを通すことによって正しいとされる箸の持ち方を練習するための練習用箸の実質的機能を達成するための構成に由来する不可避的な形態というほかない。 (3) この点に関して原告は,原告商品の機能を「正しい箸の持ち方を覚えさせるために使用する」ことにあると主張するが,これは原告商品の用途であって機能とはいえない。 また,原告は,指を挿入するにはリングの他にも「箸に指サックのような指受け」や「円筒形の筒」をつけるなどの複数の選択肢があるから,リングは不可避的に採用せざるをえない形態ではないと主張するが,指の位置関係を正しい位置に固定するためにリングを使用するということ自体は技術思想又はアイデアであって商品の形態ではない上,箸そのものの形態及び使用方法からして,指サックのような指受けや幅が広い円筒形の筒を箸に付けることはおよそ現実的とはいえないから,原告の上記主張は採用することができない。 (4) したがって,原告商品形態が商品等表示に当たるということはできない。 」 (東京地裁40部 東海林裁判長)
◆Memo
・箸の製造販売元ケイジェイシーと原告ビリーブとの関係について、「商品等表示のもつ出所識別機能及び顧客吸引力等を保護発展させるという共通の目的のもとに結束しているグループ 」に該当するか否かも判断されている。(不§2①1「他人」要件、2016.2.22.)。
(2016.2.22. 弁理士 鈴木学)
(2016.7.28. 追記)
by manabu16779
| 2016-07-28 12:33
| 不正競争防止法
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