2016年 04月 06日
特許 平成27年(行ケ)10052号 医薬発明記載要件事件 |
◆医薬発明のサポート要件等が問題となった事件。要件満たさず。
【サポート要件、偏光フィルム事件、特許法36条6項1号、実施可能要件、特許法36条4項1号、医薬、薬理試験、実施例、有用性、出願時の技術常識、実験結果の事後的な提出、特許制度の趣旨】
(サポート要件についての判断)
「しかし,本願明細書において,B型肝炎ウィルスの感染に関する記載がされているのは,【0034】…のみであり(甲4,7),前記(1)のとおり,これらの記載はいずれも,本願発明が,予防又は治療すべき状態の一つとしてウィルス感染を挙げているものにすぎず,実際にB型肝炎ウィルスの感染の予防又は治療に関して有用性があることを客観的に記載しているものではない。そして,本願明細書には,他に,「式R-A-Xの化合物」が,生体内におけるB型肝炎ウィルスに対して増殖抑制作用等の医薬的に有用な作用効果を有することを技術的に裏付ける薬理試験の結果や実施例等の客観的な事実の記載は一切ない。また,本願出願時,「式R-A-Xの化合物」がそのような作用効果を有することについての技術常識が存在したことを証する証拠はなく,そのような作用効果が,当業者が出願時の技術常識に照らして認識できる範囲のものであるとも認められない。
一般に本願発明のような医薬用途発明においては,一定の予防又は治療すべき状態に対して,特定の医薬を投与するという用途を記載するのみで,その作用効果について何ら客観的な裏付けとなる記載を伴わず,そのような技術常識もない場合には,当業者において,実際に有用性を有するか,すなわち,課題を解決できるかどうかを予測することは困難である。
…したがって,本願発明は,発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識により当業者が課題を解決できると認識できる範囲のものであるとは認められず,特許法36条6項1号の規定を満たさない。 」
(事後的なデータ提出について)
「原告は,審決が,審判請求書添付の試験結果及び基礎出願の試験結果について,これらの各試験結果の記載が,本願の出願当初の明細書等の開示範囲を超えたものであるか,又は本願発明の効果の範囲内での補充にすぎないものであるかの判断を行うべきであり,当該判断を怠って,実施可能要件及びサポート要件に規定する要件を満たさないと判断した審決には,判断手法に誤りがあると主張する。
しかし,一般に明細書に薬理試験結果等が記載されており,その補充等のために,出願後に意見書や薬理試験結果等を提出することが許される場合はあるとしても,前記(3)のとおり,本願明細書の発明の詳細な説明には,式R-A-Xの化合物を,B型肝炎ウィルスの感染を予防又は治療するために用いるという用途が記載されているのみで,当該用途における化合物の有用性について客観的な裏付けとなる記載が全くないのであり,このような場合にまで,出願後に提出した薬理試験結果や基礎出願の試験結果を考慮することは,前記(3)アで述べた特許制度の趣旨から許されないというべきである。 」
(規範部分)
「(3) 特許法36条6項1号(サポート要件)について
ア 特許法36条6項1号は,特許請求の範囲の記載について,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」を要件として規定している。
特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならないというべきである。そして,特許請求の範囲が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくても,当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年11月11日大合議判決)。」
(知財高裁1部 設樂裁判長 審:×→裁:×)
(2016.4.6. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-04-06 19:07
| 特許裁判例
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