2016年 08月 01日
著作 平成26年(ネ)10019号 ピカソオークションカタログ事件(平成26年(ネ)10023号 ) |
◆ピカソ作品のオークションのカタログに関して、複製権侵害、引用(著§32)、小冊子としての適法利用(著§47)等が問題となった事件。フランスの相続人の原告適格なども。
【オークション、カタログ、原作品、写真掲載、写真サイズ、複製権、引用、著32条、小冊子、独立して鑑賞の対象、著47条、著47状の2、平成22年施行、フランス、原告適格みとめられるか、著118条】
(引用(著§32)について)
「6 本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たるか(争点6)
被告は,本件カタログにおいて美術作品を複製したことが適法引用(著作権法32条1項)に当たる旨主張するが,その趣旨は,本件カタログにおける美術作品の作者,題号等の取引に必要な情報の記載が引用表現であり,美術作品の写真(複製物)が被引用著作物であると主張するものと解される。
そこで検討するに,著作権法32条1項は,「公表された著作物は,引用して利用することができる。この場合において,その引用は,公正な慣行に合致するものであり,かつ,報道,批評,研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」と規定するから,他人の著作物を引用した利用が許されるためには,その方法や態様が,報道,批評,研究等の引用目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであり,かつ,引用して利用することが公正な慣行に合致することが必要である。
本件カタログにおいて美術作品を複製する目的が,本件オークションにおける売買の対象作品を特定するとともに,作家名やロット番号以外からは直ちに認識できない作品の真贋,内容を通知し,入札への参加意思や入札額の決定に役立つようにする点にあるのは,明らかである。本件カタログには,美術作品の写真に合わせて,ロット番号,作家名,作品名,予想落札価格,作品の情報等が掲載されるが(乙17),実際の本件カタログをみる限り,各頁に記載された写真の大きさが上記情報等の記載の大きさを上回るものが多く,掲載された写真は,独立して鑑賞の対象となり得る程度の大きさといえ,上記の情報等の掲載に主眼が置かれているとは解し難い。しかも,本件オークションでは,本件カタログの配布とは別に,出品された美術作品を確認できる下見会が行われていることなどに照らすと,上記の情報等と合わせて,美術作品の写真を本件カタログに記載された程度の大きさで掲載する合理的な必然性は見出せない。
そうすると,本件カタログにおいて美術作品を複製するという利用の方法や態様が,本件オークションにおける売買という目的との関係で,社会通念に照らして合理的な範囲内のものであるとは認められない。また,公正な慣行に合致することを肯定できる事情も認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。 」
(新設§47の2について)
「7 原告らの請求が権利濫用に当たるか(争点7)
(1) 著作権法の改正
著作権法は,平成21年法律第53号により改正され,47条の2が新設された(平成22年1月1日施行)。同条及び本件に関連する規定は以下のとおりである。
ア 著作権法47条の2
「美術の著作物又は写真の著作物の原作品又は複製物の所有者その他のこれらの譲渡又は貸与の権原を有する者が,第二十六条の二第一項又は第二十六条の三に規定する権利を害することなく,その原作品又は複製物を譲渡し,又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者は,その申出の用に供するため,これらの著作物について,複製又は公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては,送信可能化を含む。)(当該複製により作成される複製物を用いて行うこれらの著作物の複製又は当該公衆送信を受信して行うこれらの著作物の複製を防止し,又は抑止するための措置その他の著作権者の利益を不当に害しないための措置として政令で定める措置を講じて行うものに限る。)を行うことができる。」
イ 著作権法施行令7条の2第1項1号
「法第四十七条の二の政令で定める措置は,次の各号に掲げる区分に応じ,当該各号に定める措置とする。
一 法第四十七条の二に規定する複製 当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさ又は精度が文部科学省令で定める基準に適合するものとなるようにすること。」
ウ 著作権法施行規則4条の2第1項1号
「令第七条の二第一項第一号の文部科学省令で定める基準は,次に掲げるもののいずれかとする。
一 図画として法第四十七条の二に規定する複製を行う場合において,当該複製により作成される複製物に係る著作物の表示の大きさが五十平方センチメートル以下であること。」
(2) 以上を前提に判断する。
被告は,本件訴訟における原告らの著作権の行使は,著作権法改正前にオークションのために行われた複製について,法律が明確でなかったことを幸いとして,譲渡に伴う美術の著作物の複製が法律上合法であると確認された今に至って損害賠償を請求するもので,47条の2が新設された趣旨からすると,著作権の濫用に該当するなどと主張する。
しかしながら,著作権法47条の2は,美術の著作物又は写真の著作物の原作品等の適法な取引行為と著作権とを調整する趣旨において,原作品等を譲渡又は貸与しようとする場合には,当該権原を有する者又はその委託を受けた者は,その申出の用に供するため,一定の措置を講じることを条件に,当該著作物の複製又は公衆送信を行うことを認めるものである。このように,著作権法47条の2は,一定の措置を講じることを条件に,複製権又は公衆送信権の行使を認めたものであるから,そのような措置が講じられなければ,著作権者の複製権又は公衆送信権の侵害であることに変わりはないし,同規定が遡及適用されるものでもない(平成21年法律第53号附則1条)。
そうすると,著作権法47条の2の新設により,同規定の施行前にオークションのために行われた複製について損害賠償請求等の権利行使をすることや,同規定の施行後において一定の措置が講じられた範囲外の複製について権利行使をすることが,権利濫用であるとはいい難いし,その他権利濫用であることを肯定できる事情は認められない。
したがって,被告の主張は理由がない。」
(知財高裁2部清水裁判長)
(2016.8.1. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-08-01 15:50
| 著作権法
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