2016年 08月 04日
特許 平成27年(行ケ)10160号 垂直磁気記録ヘッド事件 |
◆明細書から読み取れないような効果に関し顕著な効果の看過と言えるか等が問題となった事件。
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/060/086060_hanrei.pdf
(顕著な効果の看過について) 「 ア 原告が主張する顕著な効果 原告は,引用発明について,相違点1ないし3に係る本願発明の構成を備えることは容易に想到することができたとする本件審決の判断を特段争っていないものの,本願発明には,記録ギャップ層23のうち,ABS25-25に最も近い部分を積極的に傾斜させることにより,テーパ主磁極層21の内部において最大限に集中した状態の磁束がトレーリングシールド24に著しく漏れやすいという現象を抑制し,これにより,記録性能を向上させることができるという顕著な効果があるとして,これを看過した本件審決は誤りである旨主張する。 イ 本願明細書の記載 (ア) 原告が主張する本願発明の顕著な効果について,本願明細書に接した当業者が認識することができるかについて検討する。 (イ) まず,本願明細書には,…との記載があることから,本願明細書に接した当業者は,テーパ主磁極層21内部のエアベアリング面近傍において最大限に集中した状態の磁束がトレーリングシールド24に著しく漏れやすい現象が発生することは認識することができる。 (ウ) もっとも,本願明細書には,… これらの記載によれば,本願明細書に接した当業者は,記録ギャップ層23のうち,ABS25-25に最も近い部分を積極的に傾斜させること,すなわちテーパ主磁極層について,エアベアリング面まで傾斜部を有するという構成を採用したことによる効果を,テーパ主磁極層中を流れる磁束をエアベアリング面近傍において集中させて記録磁界の強度を増大させるという効果,及び,エアベアリング面を形成するための研磨量マージンを大きくし,研磨時に精度誤差があっても,適切なスロートハイトを形成しやすくするようにしたという効果を生じさせるという限度で認識できるにすぎない。 そして,本願明細書に接した当業者は,本願発明は,トレーリングシールド24における磁束の飽和を抑制する課題解決手段として,トレーリングシールドとテーパ主磁極層との間にテーパ非磁性上部形状層を挿入するという構成を採用したと認識できるにとどまり,テーパ主磁極層について,エアベアリング面まで傾斜部を有するという構成を採用したことが,トレーリングシールド24における磁束の飽和を抑制する課題解決手段となっていることを認識することはできないというべきである。 (エ) したがって,本願明細書に接した当業者は,原告が主張する本願発明の効果について,認識することはできない。 ウ 小括 よって,原告が主張する本願発明の効果は,本願明細書の記載に基づくものではないから,本件審決に顕著な効果を看過した誤りはない。 」 (知財高裁4部高部裁判長) (2016.8.4. 弁理士 鈴木学)
【進歩性、顕著な効果、明細書に基づかない効果の主張、当業者が認識できる限度、看過、審決誤り】
by manabu16779
| 2016-08-04 20:16
| 特許裁判例
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