2016年 08月 17日
特許 平成27年(ネ)10120号 電子部品の樹脂封止成形方法事件 |
◆金型に関する発明の特許侵害訴訟で「着脱自在の状態で装設可能」の解釈が問題となった事件。技術的範囲に属さず、非侵害。
【文言侵害、クレームの解釈、課題・解決手段、着脱自在とは?、着脱に適した構造とは?】
(語句の解釈)
「 (3) 特許請求の範囲の解釈について
ア 「着脱自在の状態で装設可能」の技術的意義
上記(1)の本件明細書の記載によれば,本件発明は,①従来の樹脂封止成形装置においては,少量生産又は大量生産への対応を金型を選択することによって行われていたが,②大量生産用の大型金型については,加工精度を均一にすることの困難等に伴う問題点があり,③異なる成形品を同時に成形することへの対応は,金型の交換,金型のレイアウトの変更,複数金型の同時装着によって行われていたが,交換作業や金型の設計製作が面倒であるなどの問題点があったことから,④最少構成単位の樹脂封止成形装置に,同じ又は他の製品用のモールディングユニットを適宜追加し,又は追加したモールディングユニットを適宜取り外す構成を採用することにより,必要な生産量や製品種類に簡易に対応し得るようにしたものであると認められる。
そして,本件発明1の構成要件Bは,「既に備えられた上記モールディングユニットに対して他のモールディングユニットを着脱自在の状態で装設可能とし」と規定し,この「既に備えられた上記モールディングユニット」が,樹脂封止前リードフレーム及び樹脂タブレット供給手段(構成要件A-2)と樹脂封止電子部品取出手段(構成要件A-3)を備えた樹脂封止成形装置の一部を構成していることは明らかであるから,「他のモールディングユニット」の装設は,このような樹脂封止成形装置の一部である状態のモールディングユニットに対して着脱するものであっても,その着脱が「自在」にされ得るものであると認められる。
このような,モールディングユニットの追加又は取外しによる生産の効率化という本件発明の目的や,既設のモールディングユニットに対しても着脱を自在にするという構成要件の内容に照らすと,本件発明1の構成要件Bの「着脱自在の状態で装設可能」とは,①単に,複数のプレス設置ユニットを有するモジュール形式の半導体樹脂封止装置というだけの場合と,②各モジュールが他のモジュールとの間で物理的には着脱が可能であるもののその着脱が想定されていない構造である場合の,いずれをも含むものではなく,③プレス設置ユニットを有するモジュールがその着脱に適した構造を有している場合をいうものと解するのが相当である。 」
(あてはめ)
「…前記(1)に判断したとおり,「着脱自在の状態で装設可能」とは,モールディングユニットが着脱に適した構造となっている場合をいうものであるところ,仮に,ハ-3号製品においてモールディングユニットを着脱するとした場合,●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●さらに,各種部材,配線,配管を人が装置の中に入って取外し,調整,取替え等をしなければならないのであり,ハ-3号製品が,いったん設置された後にモールディングユニットを増減設することを想定している構造とはいい得ない。実際にも,被控訴人が,装置設置後にモールディングユニットの増設を行ったことを認めるに足りる証拠はない。ハ-3号製品において,プレス設置ユニットの増減設が技術的に不可能ではなく,また,過分な費用を要さないとしても,それは,プレス設置ユニットがユニットとして構成されて製造されていること自体により生じる効果であって,特定の着脱に適した構成により生じる効果ではない。したがって,控訴人が主張するところの,ハ-3号製品におけるモールディングユニットの増設時間と控訴人製品におけるそれとの差があまりないとの点も,本件の結論を直ちに左右するものではない。
そうすると,ハ-3号製品は,モールディングユニットが着脱に適した構造となっているとはいえず,構成要件B,Eの「着脱自在の状態で装設可能」の要件を充足しないと認められる。 」
TOWA、アサヒエンジニアリング
(知財高裁2部清水裁判長)
◆Memo
・機械構造系…程度問題でどのようなものでも「着脱自在」と言えてしまうことがある。→課題/解決手段・技術意義・実施例に拘泥されない・技術常識。
(2016.8.17. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-08-17 20:14
| 特許裁判例
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