2016年 11月 18日
特許 平成28年(行ケ)10025号 ロール苗搭載樋付田植機事件 |
◆PBPクレームに該当するとした審決が誤りと判断された事件(ただし、他の請求項が明確性要件違反のため審決は取り消されず)。
(請求項3) 「(1) 本願補正発明3…「ポリエステル樹脂を混合・成型した籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材の表面に,綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固定し,根上がりを防止し,覆土も極少なくして育苗した,80~100cm長さの軽量稲苗マットを巻いて細いロール苗円筒とし,又は請求項1,請求項2記載の内部導光ロール苗円筒として,搭載する」との記載は,ロール苗搭載乗用田植機に搭載するロール苗の構成を特定するものであって,田植機の構成自体を特定するものとは認められない。また,ロール苗搭載乗用田植機を構成する樋状凹部がロール苗(円筒)を搭載するものであったとしても,搭載すべきロール苗(円筒)の構成によって,樋状凹部の構成が一義的に決まるわけではない。
【プロダクトバイプロセス、明確性、特許法36条6項2項、方法的記載、構造又は特性を規定、技術常識、不可能・非現実的事情、方法的記載で物を特定、物の構成とその使用方法との間の一対一の対応関係】
(規範)
「物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合(いわゆるプロダクト・バイ・プロセス・クレームの場合)において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であるところ(最高裁判所第二小法廷平成27年6月5日判決・民集69巻4号700頁参照),本願補正発明1及び2に係る前記の各記載は,いずれも,形式的にみれば,経時的な要素を記載するものといえ,「物の製造方法の記載」がある,すなわち,プロダクト・バイ・プロセス・クレームに該当するということができそうである。
しかしながら,前記最高裁判決が,前記事情がない限り明確性要件違反になるとした趣旨は,プロダクト・バイ・プロセス・クレームの技術的範囲は,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるが,そのような特許請求の範囲の記載は,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが不明であり,権利範囲についての予測可能性を奪う結果となることから,これを無制約に許すのではなく,前記事情が存するときに限って認めるとした点にある。
そうすると,特許請求の範囲に物の製造方法が記載されている場合であっても,前記の一般的な場合と異なり,当該製造方法が当該物のどのような構造又は特性を表しているのかが,特許請求の範囲,明細書,図面の記載や技術常識から明確であれば,あえて特許法36条6項2号との関係で問題とすべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームに当たるとみる必要はない。 」
(請求項1)
「 本願補正発明1に係る特許請求の範囲(請求項1)は,①透光性あるシート・フィルムを,80~100cm長さの稲育苗箱の巻取り開始縁以外の3方の縁からはみ出させる,②これを稲育苗箱底面に根切りシートとして敷く,③その上に籾殻マット等の軽い稲育苗培土代替資材をはめ込む,④この表面に綿不織布等を敷いて種籾の芒,棘毛を絡ませて固定し,根上がりを防止して,覆土も極少なくする,⑤①ないし④のとおり育苗した軽量稲苗マットを,根切りシートと一緒に巻いて,細い円筒とする,という手順を示すことにより,「内部導光ロール苗」の構造,特性を明らかにしたものと理解することが十分に可能である。 …略…
したがって,本願補正発明1及び2は,いずれも,特許法36条6項2号との関係で問題とされるべきプロダクト・バイ・プロセス・クレームとみる必要はなく,この点を理由に請求項の記載が明確でない(不可能・非実際的事情がなく,同号の要件を満たさない)とした本件審決の判断は誤りである。 」
したがって,いくらロール苗(円筒)の構成を特定しても樋状凹部の構成が特定できるわけではなく,これを設けるものとされているロール苗搭載乗用田植機の構成も特定されるわけではない。
なお,樋状凹部の形状に関して,本願明細書の段落【0011】には,「C字,コ形等の断面を持つ」との記載が,段落【0016】には,「半円形断面の」という記載があるが,いずれも断面に関する記載のみであって,それだけでは構成の特定として十分とはいえない。
また,段落【0011】には,「樋状凹部10直径(横)サイズは,小型乗用田植機隙間巾一杯の約30cmとし,ロール苗巻き取り円筒は,樋状凹部10に搭載する。樋状凹部10の長さ(縦)は,苗のせ台巾と同一とする。」との記載があるが,他方で,同段落に,「ロール苗巻き取り円筒は,樋状凹部内に立てても,横にしても搭載出来る,が樋状凹部10が上記の約30cmの場合は,立てたほうが多数搭載出来る。」との記載もあることからすると,樋状凹部の直径を30cmに限定する趣旨とは解されないし,他の段落や図面を見ても,ほかに樋状凹部の具体的な構成を特定するに足りる事項が記載されているとは認められない。
よって,本願補正発明3は明確であるとはいえず,その旨を指摘する本件審決の判断は正当である。 」
(知財高裁3部鶴岡判事)
◆Memo:
・”使い方”で物を特定、明確と言える?
→ 「…当該物の構成ではなく,その使用方法に関するものであって,その使用方法により当該物の構成が一義的に決まるわけではない(一般に,物の構成が同一であっても,使用方法は様々であり,物の構成とその使用方法との間に一対一の対応関係があるわけではないから,使用方法を特定したからといって物の構成を特定したことにはならない)」(他の請求項の明確性に関して、判決文抜粋)
(2016.11.18. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-11-18 22:25
| 特許裁判例
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