2016年 12月 01日
商標 平成28年(ネ)10073号 つかってみんしゃい/よか石けん事件 |
◆商標権侵害訴訟で被告標章「がばい/よか石けん」が原告登録商標「つかってみんしゃい/よか石けん」に類似するか等が問題となった事件。類似せず、非侵害。
【商標の類似、結合商標、識別力の弱い部分、出所表示機能、「よか」、「つかってみんしゃい/よか」、二段書き、取引上不自然な一部抽出、丸みを帯びた書体↔やや角ばった書体、誤認混同おそれ、佐賀、石鹸】
(規範)
「 ⑴ 類否の判断について
商標の類否は,対比される商標が同一又は類似の商品又は役務に使用された場合に,その商品又は役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,使用された商標がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に観察すべきであり,かつ,その商品又は役務に係る取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断するのが相当である(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
この点に関し,複数の構成部分を組み合わせた結合商標については,商標の各構成部分がそれを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものと認められる場合において,その構成部分の一部を抽出し,この部分のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することは,原則として許されない。他方,商標の構成部分の一部が取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められる場合や,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないと認められる場合などには,商標の構成部分の一部のみを他人の商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものということができる(最高裁昭和37年(オ)第953号同38年12月5日第一小法廷判決・民集17巻12号1621頁,最高裁平成3年(行ツ)第103号同5年9月10日第二小法廷判決・民集47巻7号5009頁,最高裁平成19年(行ヒ)第223号同20年9月8日第二小法廷判決・裁判集民事228号561頁参照)。 」
(判断-商標3について-)
「 ⑷ 本件商標3と被告標章1との類否について
ア 本件商標3(甲5)について
(ア) 本件商標3の外観は,別紙2商標目録3記載のとおりであり,上段は,「つかってみんしゃい」の黒色の文字を横書きして成り,下段は,黒塗り楕円内に白抜き文字で「よか」と表したもの及び「石けん」の黒色の文字を横書きしたものから成る。文字は,いずれも手書き風の丸みを帯びた書体であり,黒色の文字の大きさは,ほぼ同一である。黒塗り楕円の大きさは,黒色の文字の1.5倍程度であり,その中に表された「よか」の白抜き文字は,黒色の文字よりも一回り小さく,線も細いことから,黒色の文字に比べて特に目立つ印象はない。
上段の各文字は,近接して配置されており,下段も,黒塗り楕円と「石けん」は,近接し,「石けん」を構成する文字どうしも近接している。上段と下段との間隔も狭く,また,下段左端の黒塗り楕円は,上段の促音を表す「っ」とこれに続く「て」の文字の下方に,下段右端の「ん」の文字は,上段の「ん」と「し」の下方に位置している。このような文字及び黒塗り楕円の配置から,全体として,まとまった印象を与える。
本件商標3の全体から,「ツカッテミンシャイヨカセッケン」との称呼が生じる。 前記⑵ア及び⑶アに照らすと,本件商標3は,九州地方に関連する良質な石けんの使用を勧めるという程度の観念が生じるものということができる。
(イ) 「よか」の文字部分の抽出の可否について
前記(ア)のとおり,「よか」の文字は,黒塗り楕円の中に白抜きで表されており,黒色の文字とは外観が異なるものの,黒色の文字と同様に丸みを帯びた書体である上,黒色の文字よりも一回り小さく,線も細いことから,黒色の文字に比べて特に目立つ印象はない。
また,文字や黒塗り楕円の配置により,全体としてまとまった印象を与えるものであるから,下段の一部である黒塗り楕円内表された「よか」を分離して観察することは,取引上不自然の感を禁じ得ない。
さらに,前記⑶アと同様に,「よか」は,取引者,需要者に対して商品又は役務の出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものということはできず,また,それ以外の部分から出所識別標識としての称呼,観念が生じないともいうことはできない。
以上によれば,本件商標3については,「よか」の文字部分のみを抽出するのは相当ではなく,全体として一体的に観察して,被告標章1との類否を判断するのが相当である。
イ 本件商標3と被告標章1との類否について
前記ア及び⑵イのとおり,本件商標3と被告標章1は,外観において異なることは明らかである。称呼については,本件商標3は,「ツカッテミンシャイヨカセッケン」との称呼を,被告標章1は,「ガバイヨカセッケン」との称呼をそれぞれ生じ,これらは,後半の「ヨカセッケン」が共通するものの,この共通部分は,指定商品である石けんに,形容詞「よい」を意味する九州地方の方言である「ヨカ」を付したのみであって,出所識別標識としては弱いものである。また,観念についても,本件商標3は,九州地方に関連する良質な石けんの使用を勧めるという程度の観念を,被告標章1は,佐賀県ないし九州地方と関連性のある,非常に良質な石けんであるとの観念をそれぞれ生じ,九州地方に関連する良質な石けんに関するものであるという点において共通するものの,この共通部分も,指定商品である石けんを,その品質及び関連する地方と共に示すものにすぎず,出所識別力は弱いものである。
そして,これらの称呼及び観念の共通部分は,前記の外観の相違をりょうがするものではなく,したがって,本件商標3と被告標章1は,類似しない。
ウ 控訴人らの主張について
(ア) 控訴人らは,通常,横文字の名称が付されることが主流である美容石けん分野において,九州地方の方言である「よか」を用いて一種のシリーズとして販売してきたことに加え,本件商標3の下段を構成する文字部分のうち,「よか」の文字部分は,黒塗りの楕円の中に白抜きで表されており,見る者の目をひき,自他商品の識別標識として強く印象付けられる部分であるのに対し,「石けん」は,普通名詞であることから,「よか」が要部となり,これが被告標章1の要部である「よか」と類似する旨主張する。
しかし,前記⑶ウのとおり,本件証拠上,控訴人らが販売する商品に付された標章のうち,「よか」のみが単独で出所識別標識として使用されているとの印象を,取引者,需要者に与えるものは,見当たらない。また,前記アのとおり,「よか」の文字は,黒塗りの楕円内に白抜き文字で表されているものの,黒色の文字と同様に丸みを帯びた書体である上,黒色の文字よりも一回り小さく,線も細いことから,黒色の文字に比べて特に目立つ印象はなく,見る者の目をひき,自他商品の識別標識として強く印象付けられる部分であるということはできない。以上によれば,本件商標3のうち「よか」の文字部分のみを抽出して類否判断をすることは相当でない。
また,前記⑵イのとおり,被告標章1のうち「よか」の文字部分のみを抽出して類否判断をすることは相当でない。
(イ) 控訴人らは,本件商標3と被告標章1は,全体観察した場合においても,商品の名称である「石けん」部分を除き全て平仮名であって,字体が柔らかい印象を与える丸文字であることも共通しており,九州弁と「よか石けん」の単語で構成されている点も共通しているから,外観・称呼・観念において類似している旨主張する。
しかし,本件商標3を構成する文字は,前記アのとおり,丸みを帯びた書体であるのに対し,被告標章1を構成する文字は,前記⑵イのとおり,やや角張った書体であり,外観全体の相違は,一見して明らかである。前記イのとおり,本件商標3と被告標章1は,称呼及び観念において共通部分があるものの,外観の相違をりょうがするほどのものとはいえない。」
長寿乃里、イシダ、アスティ
(知財高裁4部高部判事、平成28年11月30日)
(2016.12.1. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-12-01 18:40
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