2016年 12月 04日
特許 平成28年(行ケ)10042号 潤滑油組成物事件 |
◆潤滑油組成物の数値限定に関してサポート要件が問題となった事件。サポート要件違反。
【サポート要件、特許法36条6項1号、数値範囲、課題解決認識範囲、技術常識、偏光フィルム事件、平成28年(行ケ)第10043号、平成28年(行ケ)第10057号】
(規範)
「 (1) 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。 」
(判断)
「… そして,【表1】ないし【表3】によれば,本願発明の特許請求の範囲に含まれる実施例1ないし5の「潤滑油基油」は,「本発明に係る潤滑油基油成分」である基油1又は2を100質量%含有する潤滑油基油(実施例1,2,4),あるいは,基油1又は2を70質量%と比較例2,3で用いた基油4を30質量%含有する潤滑油基油(実施例3,5)であることから,「潤滑油基油」が「本発明に係る潤滑油基油成分」を70~100重量%含むものについて,「本発明に係る潤滑油基油成分」と同じかそれに近い物性を有し,本願発明の課題を解決できることを理解することができる。
(4) 本願発明の課題を解決できると認識できる範囲
前記(3)によれば,本願明細書の記載に接した当業者は,「本発明に係る潤滑油基油成分」を70質量%~100質量%程度多量に含む,「本発明に係る潤滑油基油成分」と同じかそれに近い物性の「潤滑油基油」を使用し,粘度指数向上剤を添加して,100℃における動粘度を4~12mm 2 /sとし,粘度指数を140~300とした潤滑油組成物は,本願発明の課題を解決できるものと認識できる。
他方,本願発明は,「本発明に係る潤滑油基油成分以外の潤滑油基油成分としては,特に制限されない」ものであるところ(【0051】),一般に,複数の潤滑油基油成分を混合して潤滑油基油とする場合,少量の潤滑油基油成分の物性から,潤滑油基油全体の物性を予測することは困難であるという技術常識に照らすと,本願明細書の【0050】や【0054】の記載から,直ちに当業者において,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,その含有割合が70質量%~100質量%程度と多い「潤滑油基油」と,本願発明の課題との関連において同等な物性を有すると認識することができるということはできない。しかるに,本願明細書には,この点について,合理的な説明は何ら記載されていない。
(5) 本願発明のサポート要件適合性
本願発明は,前記(2)のとおり,「本発明に係る潤滑油基油成分」を,「基油全量基準で10質量%~100質量%」含有することが特定されたものであるが,前記(4)のとおり,当業者において,本願明細書の発明の詳細な説明の記載から,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できると認識するということはできない。
また,「本発明に係る潤滑油基油成分」の基油全量基準の含有割合が少なく,特許請求の範囲に記載された「基油全量基準で10質量%~100質量%」という数値範囲の下限値により近いような「潤滑油基油」であっても,本願発明の課題を解決できることを示す,本願の出願当時の技術常識の存在を認めるに足りる証拠はない。
したがって,本願発明の特許請求の範囲は,本願明細書の発明の詳細な説明の記載により,当業者が本願発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものということはできず,サポート要件を充足しないといわざるを得ない。 」
JXエネルギー
(知財高裁4部高部判事、平成28年11月30日)
(2016.12.4. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-12-04 19:29
| 特許裁判例
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