2016年 12月 28日
著作 平成28年(ネ)10054号 ゴルフシャフト図柄事件 |
◆ゴルフシャフトの図柄の著作物の翻案権・同一性保持権侵害が問題となった事件。実用品であるシャフト/その原画/カタログの図柄が著作物と言えるか? 地裁・高裁ともに著作物性無しと判断。
◆知財高裁 平成28年(ネ)10054号 著作物性無し
◆東京地裁 平成27年(ワ)21304号 著作物性無し
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/904/085904_hanrei.pdf
【著作物性、著2①1、応用美術、何らかの個性、美的鑑賞の対象、原画デザイン、製品(実用品)、カタログ、Tour D、後継品のデザイン修正、配色・パターンの無断変更、デザイナーの権利】
(応用美術と著作物性)
「…本件は,いわゆる応用美術の著作物性が問題となる。
ところで,著作権法は,建築(同法10条1項5号),地図,学術的な性質を有する図形(同項6号),プログラム(同項9号),データベース(同法12条の2)などの専ら実用に供されるものを著作物になり得るものとして明示的に掲げているのであるから,実用に供されているということ自体と著作物性の存否との間に直接の関連性があるとはいえない。したがって,専ら,応用美術に実用性があることゆえに応用美術を別異に取り扱うべき合理的理由は見出し難い。また,応用美術には,様々なものがあり得,その表現態様も多様であるから,美的特性の表現のされ方も個別具体的なものと考えられる。
そうすると,応用美術は,「美術の著作物」(著作権法10条1項4号)に属するものであるか否かが問題となる以上,著作物性を肯定するためには,それ自体が美的鑑賞の対象となり得る美的特性を備えなければならないとしても,高度の美的鑑賞性の保有などの高い創作性の有無の判断基準を一律に設定することは相当とはいえず,著作権法2条1項1号所定の著作物性の要件を充たすものについては,著作物として保護されるものと解すべきである。
もっとも,応用美術は,実用に供され,あるいは産業上の利用を目的とするものであるから,美的特性を備えるとともに,当該実用目的又は産業上の利用目的にかなう一定の機能を実現する必要があり,その表現については,同機能を発揮し得る範囲内のものでなければならない。応用美術の表現については,このような制約が課されることから,作成者の個性が発揮される選択の幅が限定され,したがって,応用美術は,通常,創作性を備えているものとして著作物性を認められる余地が,上記制約を課されない他の表現物に比して狭く,また,著作物性を認められても,その著作権保護の範囲は,比較的狭いものにとどまることが想定される。そうすると,応用美術について,美術の著作物として著作物性を肯定するために,高い創作性の有無の判断基準を設定しないからといって,他の知的財産制度の趣旨が没却されたり,あるいは,社会生活について過度な制約が課されたりする結果を生じるとは解しがたい。また,応用美術の一部について著作物性を認めることにより,仮に,何らかの社会的な弊害が生じることがあるとすれば,それは,本来,著作権法自体の制限規定等により対処すべきものと思料される。 」
(あてはめ)
「 ウ 本件シャフトデザイン及び本件原画の著作物性の有無
控訴人は,…本件シャフトデザイン等には創作性が認められるべきである,と主張する。
しかし,①縞模様は,本件シャフトデザイン及び被告シャフト以外にもシャフトのデザインに用いられた例がある(乙1の添付資料8)上に,様々な物のデザインとして頻繁に用いられ,縞の幅を一定とせずに徐々に変更させていく表現も一般に見られるところである。ゴルフシャフトの色として,赤,黒及びグレーの3色を用いた例は証拠上複数見られる(甲30の3の中央の画像の真ん中のシャフト,甲30の4の中央の画像の一番上のシャフト,甲30の5の中央の画像の後ろのシャフト)。よって,本件シャフトデザイン等を縞模様とし,縞の幅を変化させ,縞の色として赤,黒及びグレーを選択したことは,ありふれている。
また,②いわゆるデザイン書体は,文字の字体を基礎として,これにデザインを施したものであるところ,文字は,本来的には情報伝達という実用的機能から生じたものであり,社会的に共有されるべき文化的所産でもあるから,文字の字体を基礎として含むデザイン書体の表現形態に著作権としての保護を与えるべき創作性を認めることは,一般的には困難であると考えられる。しかも,本件において,「Tour AD」のブランドロゴは,上記ア(エ)のとおり,既存のフォントを利用した上で,「T」の横字画部を右に長く鋭角に伸ばしたものであるところ,文字として可読であるという機能を維持しつつデザインするに当たって,文字の一字画のみを当該文字及び他の文字の字画を妨げない範囲で伸ばすことは一般によく行われる表現であること,文字の一字画を伸ばした先を単に鋭角とすることも,平凡であることからすれば,この表現が個性的なものとは認められない。
さらに,③ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことに関しては,シャフトのデザインに製品等のロゴを目立つように配置することは,他のゴルフクラブのシャフトにも頻繁に見られる(甲29,甲30の1~5)表現であり,細長いシャフトに文字を大書して目立たせる配置をすることの選択の幅は狭いから,ブランドロゴをトルネード模様の上に配置したことが個性的な表現とはいえない。
よって,本件シャフトデザイン等に,創作的な表現は認められず,著作物性は認められない。 」
(知財高裁2部清水裁判長、平成28年12月12日)
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/904/085904_hanrei.pdf
(シャフトデザイン及び本件原画の著作物性)
「 著作権法2条1項1号は「著作物」とは「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう」旨,同条2
項は「この法律にいう『美術の著作物』には,美術工芸品を含むものとする」旨規定している。これらの規定に加え,同法が文化の発展に寄与することを目的とするものであること(1条),工業上利用することのできる意匠については所定の要件の下で意匠法による保護を受けることができることに照らせば,純粋な美術ではなくいわゆる応用美術の領域に属するもの,すなわち,ゴルフクラブのシャフトのように実用に供され,産業上利用される製品のデザイン等は,実用的な機能を離れて見た場合に,それが美的鑑賞の対象となり得るような創作性を備えている場合を除き,著作権法上の著作物に含まれないものと解される。 」
「… 以上認定した事実によれば,本件シャフトデザイン及び本件原画は,ゴルフクラブのユーザーの目を引くことなど専ら商業上の目的のため,発注者で
ある被告の意向に沿って,実用品であるシャフトの外装デザインとして作成されたことが明らかである。一方,本件の関係各証拠上,本件シャフトデザイン及び本件原画が,シャフトの外装デザインという用途を離れて,それ自体として美的鑑賞の対象とされるものであることはうかがわれない。そうすると,原告の前記主張は採用できず,本件シャフトデザイン及び本件原画はいずれも著作権法上の著作物に当たらないと判断することが相当である。 」
(東京地裁46部長谷川裁判長、平成28年4月21日)
(2016.12.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-12-28 18:17
| 著作権法
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