2017年 01月 16日
商標 平成28年(ワ)3234号 アドミラル商標ライセンス契約事件 |
◆ライセンスを受けていた被告が訴訟手続等の遂行をせず商標権が取消しとなった件で、被告に訴訟手続の遂行義務があったか否か(債務不履行)等が争点となった事件。
【ライセンス、独占的通常使用権、契約の内容、商標法53条の取消審判、侵害排除義務、債務不履行、訴訟告知、補助参加、admiral、アドミラル、靴】
「 1 争点1(被告は,本件ライセンス契約に基づき,被告の費用と責任において,必要に応じて原告から委任状を取得するなどして弁護士を選任し,審判手続及び審決取消訴訟手続において防御させるべき義務を負っていたか)について
(1) 原告は,双日GMCによる本件各審判請求及びこれに引き続く本件審決取消訴訟の提起は,本件契約書7条2項にいう「甲(判決注:被告)の販売方法に起因してクレームを受けた」場合に当たるから,被告は,本件ライセンス契約に基づき,これらをすべて被告の責任と負担において解決すべき義務,具体的には,被告の費用と責任をもって弁護士を選任し,必要に応じて原告から同弁護士宛の委任状を取得して,審判手続及び審決取消訴訟手続において防御させる義務を負っていたと主張する。
(2) 双日GMCが行った本件各審判請求は,商標法53条1項に基づくものであるところ,同条項に基づく審判請求が可能となるのは,法文上,「専用使用権者又は通常使用権者が指定商品若しくは指定役務又はこれらに類似する商品若しくは役務についての登録商標又はこれに類似する商標の使用であって商品の品質若しくは役務の質の誤認又は他人の業務に係る商品若しくは役務と混同を生ずるものをしたとき」(判決注:下線を付した。)である。
しかるところ,本件契約書7条は,1項において,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合,あるいは第三者による本件商標の侵害行為を発見した場合,甲乙丙は直ちにその旨をそれぞれに連絡し,当該クレームまたは訴訟に対する防御あるいは第三者による侵害行為の排除を共同して行うものとし,これに要した費用負担については,甲乙丙が協議の上定めるものとする。」(判決注:下線を付した。)と規定しているのであるから,双日GMCが行った本件各審判請求及びこれに引き続く本件審決取消訴訟については,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合」に当たる(少なくともこれに準ずる)ものとして,本件契約書7条1項が適用されるものと解するのが相当である。
(3) これに対し,原告は,本件契約書7条2項の文言上,クレームをする者が一般消費者であるか,クレームを受けた者が被告であるかなどについて限定はないから,同クレームが被告の販売方法に起因したものであれば,本件契約書7条2項が適用されるべきであって,双日GMCによる本件各審判請求は,被告の販売方法に起因するクレームであるから,同条項が適用されるべき旨主張する。
そこで検討するに,本件契約書7条は,まず1項において,「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合,あるいは第三者による本件商標の侵害行為を発見した場合,甲乙丙は直ちにその旨をそれぞれに連絡し,当該クレームまたは訴訟に対する防御あるいは第三者による侵害行為の排除を共同して行うものとし,これに要した費用負担については,甲乙丙が協議の上定めるものとする。」と規定し,商標の使用に関して生じた紛争については,原則として1項により規律されるべき旨を明らかにしている。ここで,本件ライセンス契約上,被告は,原告から許諾を受けて本件各商標を使用する(本件各商標の付された指定商品を販売する)立場にあるから,1項にいう「本契約に基づく商標の使用」の主体が被告となることは,本件ライセンス契約が当然に想定していることである。もっとも,商標の使用といっても,当該商標が使用された商品の品質に欠陥があり,又は商品を販売する際の販売方法に問題があって,このために顧客等に損害を及ぼすなどしたというような紛争が発生した場合には,かかる紛争は,形式的には商標の使用行為によって生じたものではあるが,実質的には商標に関する紛争とはいい難く,当然に,商品を実際に製造し,又は販売した者(被告)が責任を負担してしかるべき性質のものということができる。本件契約書7条2項に「本件商標を付した指定商品の品質上の欠陥及び甲の販売方法に起因してクレームを受けた場合は,全て甲の責任と負担において処理解決をすることとする。」とあるのは,このような認識に立って,被告が販売する商品の品質に欠陥があり,又は商品を販売する際の販売方法に問題があったために顧客等から苦情を受けた場合など,実質的にみて商標に関する紛争とはいえない場合には,被告がその責任において同紛争を処理解決すべき旨を規定したものと解するのが相当である。
双日GMCによる本件各審判請求は,原告の主張によっても,①被告商品が,双日GMC商品と酷似していること,②両商品において付された商標の位置や種類がほぼ同じであること,③両商品とも,被告の店舗において紛らわしい売り方をされていたことなどを理由にしてされたというのであり,上記③のように,「被告の販売方法」に着目してされた主張も存在するものの,本件各商標を付した被告商品の販売が,双日GMCの業務に係る商品(双日GMC商品)と混同を生ずるものであるかが問題とされているのであり,実質的に見て商標に関する紛争でないとはいい難い。むしろ,前記前提事実及び証拠(甲1,4,6)によれば,双日GMCの保有する関連各商標権は,平成20年10月29日に(分割前の)本件各商標権から指定商品を「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く」)」とする商標権が分割移転されたものであり,関連商標1ないし同5と本件商標1ないし同5とは,それぞれ同一の商標であって,関連各商標登録の指定商品である「履物・・・但し,履物(サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く)を除く」と本件各商標登録の指定商品である「履物(「サンダル靴,サンダルげた,スリッパを除く」)」とは,形式的には重複しないものの,相互に類似する関係にあると認められるから,本件各審判請求は,商標に関する紛争そのものというべきであって,本件契約書7条1項にいう「本契約に基づく本件商標の使用に関し,第三者よりクレームまたは訴訟の提起を受けた場合」として,同項により規律されるべき性質のものというべきである。
また,前記前提事実及び証拠(甲3,7,乙9)によれば,原告は,本件各審判請求を受けた後,双日GMCの審判請求の理由を認識した上で,本件覚書に調印し,本件各商標登録を取り消す旨の審決が確定したときは,既払ミニマムロイヤリティの一部を被告に返還することや,被告が販売することができなくなった在庫商品につき一定の補償をすることを約したことが認められ,他方,原告が,上記調印当時,被告に対し,審判手続への参加その他の協力を求めたり,原告が同手続のために支出し又は支出することとなる弁護士費用の負担を求めたりした形跡がないことからすれば,原告は,本件覚書を調印した平成25年10月1日当時,被告ではなく,本件各商標権の商標権者であって,本件各審判請求における被請求人である原告こそが,本件各商標権を維持できるよう努め,本件ライセンス契約に基づく被告の利益を擁護すべき立場にあった旨認識していたことは,明らかである。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
(4) 以上によれば,双日GMCによる本件各審判請求及び本件審決取消訴訟の提起について本件契約書7条2項が適用されることを前提として被告の債務不履行をいう原告の主張は,その前提を欠くものであって,理由がない。 」
IBEX、チヨダ、ボーンズ
(東京地裁29部嶋末裁判長、平成28年12月21日)
(2017.1.16. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-01-16 19:33
| 商標
|
Comments(0)