2017年 03月 21日
特許 平成27年(ワ)4461号 外国為替取引システム侵害訴訟事件(その1) |
◆外為オンラインの為替取引システムが原告特許権を侵害するかが争点となった事件。文言侵害不成立、均等侵害も主張したが認められず。分割新規事項、サポート要件違反も。
【特許5525082、「サイクル注文」、「iサイクル注文」、特許侵害訴訟、技術的範囲、特§70、均等論、第1要件、第2要件(課題解決原理の相違による作用効果の相違)、第3要件、第5要件、非本質的部分の認定手法、従来技術、意識的除外、大合議判決、分割要件、サポート要件、36条6項1号】
(均等論 -非本質的部分の認定-)
「(3) 第1要件(非本質的部分)について
ア 特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第10014号)特別部判決参照)。 」
(当てはめ)
「…しかし,本件発明1に係る特許(本件特許1)の出願時の従来技術に照らせば,本件明細書等1に本件発明1の課題として記載された「システムを利用する顧客が煩雑な注文手続を行うことなく指値注文による取引を効率的かつ円滑に行うことができる金融商品取引管理方法を提供すること」(段落【0006】)は,本件発明1の課題の上位概念を記載したものにすぎず,客観的に見てなお不十分であるといわざるを得ない。
以下,詳述する。 …略…
以上の各記載に,上記エのとおり,引用文献1には既に「一の注文手続で,同一種類の金融商品について,複数の価格にわたって一度に注文を行う」という技術が開示されていたことも併せれば,本件発明1は,単に一の注文手続で複数の価格にわたって一度に注文を行うだけではなく,「請求項1・・・の発明」による「売買注文申込情報」,すなわち,「金融商品の種類」(構成要件1B-1),「注文価格ごとの注文金額」(構成要件1B-2),「注文価格」(構成要件1B-3),「利幅」(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す各情報に基づいて,同一種類の金融商品を複数の価格について指値注文する注文情報からなる注文情報群を生成することにより,金融商品を売買する際,一の注文手続きを行うことで,同一種類の金融商品を複数の価格にわたって一度に注文できるという点にその本質的部分があるというべきである。
カ これを被告サービス1についてみると,被告サービス1では「利幅」(構成要件1B-4)及び「値幅」(構成要件1B-5)を示す情報が入力されないのであるから,本件発明1と被告サービス1の相違点が特許発明の本質的部分ではないということはできない。
したがって,被告サービス1については,均等の要件のうち第1要件を満たさない。 」
(第5要件)
「(4) 第5要件(意識的除外等の特段の事情)
さらに,事案に鑑み,均等の第5要件についても検討する。 ア 特許発明の実質的価値は,特許請求の範囲に記載された構成からこれと実質的に同一なものとして当業者が容易に想到することのできる技術に及び,第三者はこれを予期すべきものであるから,対象製品等が,特許発明とその本質的部分,目的及び作用効果で同一であり,かつ,特許発明から当業者が容易に想到することができるものである場合には,原則として,対象製品等は特許発明と均等であるといえる。しかし,特許出願手続において出願人が特許請求の範囲から意識的に除外したなど,特許権者の側において一旦特許発明の技術的範囲に属しないことを承認するか,又は外形的にそのように解されるような行動をとったものについて,特許権者が後にこれと反する主張をすることは,禁反言の法理に照らし許されないから,このような特段の事情がある場合には,例外的に,均等が否定されることとなる(前掲知的財産高等裁判所平成28年3月25日特別部判決参照)。 」
マネースクウェアHD、外為オンライン
(東京地裁40部東海林裁判長、)
(2017.3.21. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-03-21 21:23
| 特許裁判例
|
Comments(0)