2017年 03月 22日
特許 平成28年(行ケ)10186号 摩擦熱変色性筆記具事件(進歩性) |
◆消えるインクペンの特許に関し、進歩性が問題となった事件。引用文献どうしの組合わ可能性や2段階の論理付けなどを理由に、容易想到でないと判断。審決取消。
【進歩性、無効審判、審決取消訴訟、特許法29条2項、基本的構成原理の異なる2つの文献は組合せ可能?、「容易の容易」の主張、消えるインクペン、フリクションペン】
(相違点5についての判断)
「 6 相違点5に係る容易想到性の判断の誤りについて
⑴ 前記2⑵のとおり,本件発明1と引用発明1との間には,本件発明1が,エラストマー又はプラスチック発泡体から選ばれ,摩擦熱により前記インキの筆跡を消色させる摩擦体が,筆記具の後部又はキャップの頂部に装着されてなるのに対し,引用発明1は,特定していないという相違点5が存在する。
⑵ 相違点5に係る容易想到性について
・・・略・・・
エ 引用発明1に引用発明2を組み合わせることについて
・・・略・・・
このように,引用発明1と引用発明2は,いずれも色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料を使用してはいるが,①引用発明1は,可逆熱変色性インキ組成物を充填したペン等の筆記具であり,それ自体によって熱変色像の筆跡を紙など適宜の対象に形成できるのに対し,②引用発明2は,筆記具と熱変色層が形成された支持体等から成る筆記材セットであり,筆記具である冷熱ペンが,氷片や冷水等を充填して低温側変色点以下の温度にした特殊なもので,インキや顔料を含んでおらず,通常の筆記具とは異なり,冷熱ペンのみでは熱変色像の筆跡を形成することができず,セットとされる支持体上面の熱変色層上を筆記することによって熱変色像の筆跡を形成するものであるから,筆跡を形成する対象も支持体上面の熱変色層に限られ,両発明は,その構成及び筆跡の形成に関する機能において大きく異なるものといえる。したがって,当業者において引用発明1に引用発明2を組み合わせることを発想するとはおよそ考え難い。
・・・略・・・
イ 被告は,消去具である摩擦具9を筆記具の後部又はキャップの頂部に装着することは,引用例3,4,7及び8に加え,甲第10,11,13,14及び52号証に記載されている消しゴム付き筆記具のように,従来から周知慣用の構造を適用するものであり,当業者にとって容易である旨主張する。
しかし,前記⑵オ(ウ)のとおり,摩擦具9は,低温側変色点以下の低温域での発色状態又は高温側変色点以上の高温域における消色状態を特定温度域において記憶保持することができる色彩記憶保持型の可逆熱変色性微小カプセル顔料からなる可逆熱変色性インキ組成物によって形成された有色の筆跡を,摩擦熱により加熱して消色させるものであり,単に筆跡を消去するものとは性質が異なる。
引用例3,4,7,8,甲第10,11,13,14及び52号証によれば,消しゴムなど単に筆跡を消去するものについては,筆記具の後部ないしキャップに装着することが周知慣用の構成であったと認められるものの,前記のような摩擦具9については,上記のように装着することが当業者に周知された構成であったということはできない。
さらに,仮に,当業者において摩擦具9を筆記具の後部ないしキャップの頂部に装着することを容易に想到し得たとしても,前記⑵オ(エ)のとおり,それは,引用発明1に基づき,2つの段階を経て相違点5に係る本件発明1の構成に至ることになるから,格別な努力を要するものといえ,当業者にとって容易であったということはできない。
⑷ 小括
以上によれば,当業者において相違点5に係る本件発明1の構成を容易に想到するということはできず,したがって,本件審決は,相違点5に係る本件発明1の構成の容易想到性を認めた点において誤りがある。 」
パイロット、三菱鉛筆
(知財高裁4部高部判事、平成29年3月21日)
(2017.3.22. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-03-22 20:24
| 特許裁判例
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