2017年 05月 02日
特許 平成27年(ワ)556号 切断装置事件(消尽etc) |
◆共有特許権者以外の者が特許製品を製造販売した場合に「消尽」が成立するか等が争点となった事件。消尽しない。
【共有特許、特許法73条、自己の名義・計算による実施行為、消尽、103条、過失推定の覆滅事由、ふぐ刺身機】
(共有の特許権消尽)
「 ウ 争点(1)ア(ウ)(本件製品を補助参加人が製造販売したことにより消尽が成立するか)について
(ア) 特許権の共有者による実施について
特許法73条2項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,契約で別段の定をした場合を除き,他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる。」と規定している。これは,特許発明のような無体財産は占有を伴うものではないから,共有者の一人による実施が他の共有者の実施を妨げることにならず,共有者が実施し得る範囲を持分に応じて量的に調整する必要がないことに基づくものである。もっとも,このような無体財産としての特許発明の性質は,その実施について,各共有者が互いに経済的競争関係にあることをも意味する。すなわち,共有に係る特許権の各共有者の持分の財産的価値は,他の共有者の有する経済力や技術力の影響を受けるものであるから,共有者間の利害関係の調整が必要となる。
そこで,同条1項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,その持分を譲渡し,又はその持分を目的として質権を設定することができない。」と規定し,同条3項は,「特許権が共有に係るときは,各共有者は,他の共有者の同意を得なければ,その特許権について専用実施権を設定し,又は他人に通常実施権を許諾することができない。」と規定しているのである。
このような特許法の規定の趣旨に鑑みると,共有に係る特許権の共有者が自ら特許発明の実施をしているか否かは,実施行為を形式的,物理的に担っている者が誰かではなく,当該実施行為の法的な帰属主体が誰であるかを規範的に判断すべきものといえる。そして,実施行為の法的な帰属主体であるというためには,通常,当該実施行為を自己の名義及び計算により行っていることが必要であるというべきである。 」
(当てはめ)
「 (ウ) 検討
a 上記(イ)の事実関係によれば,補助参加人は,ヤマト商工第2工場の責任者として,水産加工機械の開発,製造に携わっていたが,同製造に要する原材料は,ヤマト商工の名義及び計算により仕入れられていたこと,補助参加人は,ヤマト商工から固定額の金銭を受領しており,水産加工機械の販売実績によってヤマト商工の補助参加人に対する支払額が左右されるものでないこと,顧客に対しても,水産加工機械の販売に伴う責任等を負う主体としてヤマト商工の名が表示されていたことなどが認められ,また,本件製品との関係では,七宝商事がヤマト商工に支払ったのは,ヤマト商工の請求に係る「BK-2フグスライサー」(すなわち,本件製品)の代金310万円(税別)であって,ヤマト商工が同金員の全てを受領していること,七宝商事が補助参加人に支払ったのは,補助参加人の請求に係る「エフビックライサー BK-2 管理費」(すなわち,本件製品のメンテナンス料)40万円(税別)であって,補助参加人が同金員の全てを受領していることが認められるから,本件製品の製造販売は,ヤマト商工の名義及び計算により行われたものであり,補助参加人の名義及び計算で行われていたものがあるとすれば,それは,本件製品のメンテナンスにとどまり,本件製品の製造販売ではないというべきである。
b この点,原告は,本件製品は補助参加人が自ら製造販売したものであるとして縷々主張するが,既に説示したとおり,補助参加人が形式的,物理的に製造販売に関与したか否かが問題なのではなく,いかなる立場で関与したか,すなわち,ヤマト商工の名義及び計算において行われる製造販売にヤマト商工の手足として関与したのか,補助参加人の名義及び計算において行われる製造販売を自ら行ったかが問題なのであって,原告の上記主張は,的を射ないものである。 」
(過失推定の覆滅事由)
「 ここで,特許法103条により推定される過失とは,特許権侵害の予見義務又は結果回避義務違反のことを指すから,過失推定の覆滅事由としては,特許権の存在を知らなかったことについて相当の理由があるといえる事情,自己の行為が特許発明の技術的範囲に属さないと信じたことについて相当の理由があるといえる事情,特許権者が当該特許権を行使することができないとすべき事由があると信じたことについて相当の理由があるといえる事情などが挙げられる。 」
(特許公報発行前の実施は過失推定を覆すか)
「 なお,原告は,特許法103条の規定について,特許公報が公開されていることを前提とするものである旨主張しているところ,原告の同主張は,特許公報の発行までの間は,同条に基づく過失の推定が覆滅されるべきであるとの趣旨とも解されるが,①既に述べたとおり,特許権の設定登録がされれば,特許の内容を知り得る状態になること,②登録から特許公報の発行までは,事柄の性質上,ある程度の期間を要すると考えられ,特許権発生後,特許公報が発行されていない期間が生じることは,特許法の規定上,予定されていると解されること,③同法103条は,単に「特許権」を侵害した者はその侵害の行為について過失があったものと推定される旨規定し,特許権の発生時(登録時)から過失による不法行為責任を負うことを原則としており,特許公報の発行を過失の推定の要件と定めてはいないことからすれば,特許公報の発行前であることのみをもって過失の推定が覆されると解することは相当ではない(以上と同旨の結論をいう裁判例として,東京地裁平成24年(ワ)第35757号同27年2月10日判決参照)。 」
有限会社快成、サンテクノ、ヤマト商工
(東京地裁29部嶋末裁判長、平成29年4月29日)
(2017.5.2. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-05-02 22:25
| 特許裁判例
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