2017年 05月 25日
平成28年(ネ)10098号 画像認証システム技術供与ライセンス事件 |
◆取締役会の議決を経ずに締結された特許の実施許諾契約が無効と判断された事件。
【特許権、ライセンス、実施許諾契約、契約無効、取締役会】
(契約の有効性)
「 これを本件についてみると,まず,被控訴人が,従業員200名程度を擁し,年商が約30億円に上る相応の規模を有する株式会社であり,控訴人代表者もそのことを認識していたこと(乙14の1頁)からすれば,被控訴人が取締役会設置会社であることは,控訴人において容易に想定し得たことといえる。また,本件各契約の契約金額及び被控訴人の会社規模に照らせば,本件各契約の締結が被控訴人の取締役会決議を要する「重要な財産の譲受け」に当たる案件であることは,控訴人としても知り得たことと考えられる。
他方,確かに,いずれも被控訴人の代表者印が押印された本件各契約書が被控訴人の取締役であるBから控訴人代表者に交付されていることからすると,控訴人としては,本件各契約の締結が,被控訴人の正規の社内手続を経た上で決定されたものであると信頼してよさそうにも見える。
しかし,まず,甲1契約についてみると,前記(2)イのとおり,被控訴人における正規の社内手続を経ていないことを疑わせる種々の外形的要素が存するのであって,特に,控訴人代表者は,契約についての協議をBとの間でしか行っておらず,被控訴人の代表者であるAやその他の役員らの意思を直接確認していないことに加え,甲1契約書に記載された成果物仕様の内容が極めて簡略で,その記載のみからでは内容を理解し難いものであり,控訴人が請け負う開発業務の具体的内容を特定するための契約書の記載としては不十分と言わざるを得ないものであって,このような契約書の記載に基づいて2億円もの契約金の支払義務を負担する契約を締結することについて,被控訴人程度の規模を有する株式会社の取締役会において承認が容易に得られるとは通常考え難いことからすると,控訴人としても,甲1契約の締結について被控訴人の取締役会決議を経ていないことを少なくとも知り得べき状況にあったものというべきである。
また,甲2契約及び甲3契約についてみても,前記(2)ウのとおり,被控訴人における正規の社内手続を経ていないことを疑わせる種々の外形的要素が存するのであって,特に,控訴人代表者とAの間で,実施料は被控訴人が事業利益を得た場合のランニング方式による後払いで足りることを確認したにもかかわらず,それとは全く異なる内容の契約書となっていることや,甲2契約書に記載された成果物仕様の内容が極めて簡略であって,上記で甲1契約について述べたところと同様のことがいえることからすると,控訴人としても,甲2契約及び甲3契約の締結について被控訴人の取締役会決議を経ていないことを少なくとも知り得べき状況にあったものというべきである。 」
デジタルアクト、アロートラストシステムズ
(知財高裁3部鶴岡判事、平成29年4月12日)
(2017.5.25. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-05-25 20:57
| 特許裁判例
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