2017年 08月 12日
特許 平成28年(ワ)35763号 フリー会計処理装置事件(侵害訴訟) |
◆クラウドコンピューティングの会計処理に関して特許権侵害が問題となった事件。被告サービスは「対比テーブル」を使用しておらず非侵害、均等侵害も不成立。
【技術的範囲、文言侵害、特§70、ソフトウェア、機械学習、Freee、クラウド、 特許5503795号、文書提出命令、インカメラ、特§105①但書、均等第1要件(進歩性を基礎づける本質的部分)、第5要件】
(文言侵害)
「 被告方法について
ア 被告方法の認定
原告による被告方法の実施結果は,別紙「原告による被告方法の実施結果」記載のとおりであり,被告による被告方法の実施結果は,別紙「被告による被告方法の実施結果」記載のとおりである。
上記2つの実施結果は,両立しうるものというべきであり,また,それぞれの信用性を疑わせるような事情は特に認められないところ,後者の実施結果によれば,次の事実が認められる。
すなわち,入力例①及び②によれば,摘要に含まれる複数の語をそれぞれ入力して出力される勘定科目の各推定結果と,これらの複数の語を適宜組み合わせた複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果をそれぞれ得たところ,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が,上記組み合わせ前の語を入力した場合に出力される勘定科目の各推定結果のいずれとも合致しない例(本取引⑥⑦⑭)が存在することが認められる。例えば,本取引⑦において,「商品店舗チケット」の入力に対し勘定科目の推定結果として「仕入高」が出力されているが,「商品店舗チケット」を構成する「商品」,「店舗」及び「チケット」の各単語を入力した場合の出力である「備品・消耗品費」,「福利厚生費」及び「短期借入金」(本取引①ないし③)のいずれとも合致しない。
また,入力例③及び④によれば,摘要の入力が同一であっても,出金額やサービスカテゴリーを変更すると,異なる勘定科目の推定結果が出力される例(本取引⑮ないし⑱)が存在することが認められる。 さらに,入力例⑤及び⑥によれば,「鴻働葡賃」というような通常の日本語には存在しない語を入力した場合であっても,何らかの勘定科目の推定結果が出力されていること(本取引⑲ないし㉒)が認められる。 以上のような被告による被告方法の実施結果によれば,原告による被告方法の実施結果を十分考慮しても,被告方法が上記アのとおりの本件発明13における「取引内容の記載に複数のキーワードが含まれる場合には,キーワードの優先ルールを適用して,優先順位の最も高いキーワード1つを選び出し,それにより取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照することにより,特定の勘定科目を選択する」という構成を採用しているとは認めるに足りず,かえって,被告が主張するように,いわゆる機械学習を利用して生成されたアルゴリズムを適用して,入力された取引内容に対応する勘定科目を推測していることが窺われる。
なぜならば,被告方法において,仮に,取引内容の記載に含まれうるキーワードについて対応する勘定科目を対応づけた対応テーブル(対応表のデータ)を参照しているのであれば,複合語を入力した場合に出力される勘定科目の推定結果が組み合わせ前の語による推定結果のいずれとも合致しないことや,摘要の入力が同一なのに出金額やサービスカテゴリーを変更すると異なる勘定科目の推定結果が出力されることが生じるとは考えにくいし,通常の日本語には存在しない語をキーワードとする対応テーブル(対応表のデータ)が予め作成されているとは考えにくいからそのような語に対して何らかの勘定科目の推定結果が出力されることも不合理だからである。 …略…
小括
したがって,被告方法は構成要件13C及び13Eを充足しない。
さらに,原告は,被告製品1が本件発明1及び10の技術的範囲に属し,被告製品2が本件発明14の技術的範囲に属するとも主張するが,上記と同様の理由により,被告製品1は構成要件1C,1E及び10Bを充足せず,また,被告製品2は構成要件14C及び14Eを充足しない。 」
(均等侵害)
-第1要件-
「エ 本件発明の本質的部分について
本件明細書の従来技術として上記ウの公知文献は記載されておらず,同記載は不十分であるため,上記公知文献に記載された発明も踏まえて本件発明の本質的部分を検討すべきである。
…略…
そして,上記公知文献の内容を検討すると,上記ウ①,②から,取引明細情報は,取引ごとにマッチング処理が行われることからすれば,乙4に記載されたSaaS型汎用会計処理システムにおいても,当該取引明細情報を取引ごとに識別することは当然のことである。
また,上記ウ③の「取得明細一覧画面上」の「各明細情報」は,マッチング処理済みのデータであるから,「取得明細一覧画面」は「仕訳処理画面」といえる。
さらに,上記ウ③の「仕訳情報入力画面」は,従来から知られているデータ入力のための支援機能の一つに過ぎず(段落【0002】,【0057】),表示された取引一覧画面上で各取引に係る情報を当該画面から直接入力を行うこと及び該入力の際プルダウンメニューを使用することも普通に行われていること(特開2004-326300号公報(乙5)段落【0066】-【0081】)からすれば,「取引明細一覧画面」に仕訳情報である「相手勘定科目」等を表示し変更用のプルダウンメニューを配置することは当業者が適宜設計し得る程度のことである。
以上によれば,本件発明1,13及び14のうち構成要件1E,13E及び14Eを除く部分の構成は,上記公知文献に記載された発明に基づき当業者が容易に発明をすることができたものと認められるから,本件発明1,13及び14のうち少なくとも構成要件1E,13E及び14Eの構成は,いずれも本件発明の進歩性を基礎づける本質的部分であるというべきである。
このことは,上記イの本件特許に係る出願経過からも裏付けられる。 原告は,構成要件1E,13E及び14Eの構成について均等侵害を主張していないようにも見えるが,仮に上記各構成要件について均等侵害を主張していると善解しても,これらの構成は本件発明1,13及び14の本質的部分に該当するから,上記各構成要件を充足しない被告製品1,2並びに被告方法については,均等侵害の第1要件を欠くものというべきである。 」
-第5要件-
「 均等侵害の第5要件について
上記 イ認定の本件特許に係る出願経過によれば,原告は,構成要件1E,13E及び14Eの各構成を有さない対象製品等を本件発明1,13,及び14に係る特許請求の範囲から意識的に除外したものと認められるから,被告製品1,2並びに被告方法については,均等侵害の第5要件をも欠くというべきである。 」
(東京地裁47部沖中裁判長、平成29年7月27日)
フリー、マネーフォワード
(2017.8.12. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-08-12 07:30
| 特許裁判例
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