2017年 08月 23日
特許 平成28年(行ケ)10273号 消火設備用噴霧ヘッド事件(進歩性) |
◆消火設備用のガス噴霧ヘッドの構造に関し、細かい構造上の相違はあるものの設計的事項として容易想到と判断された事件。
【進歩性、29条2項、設計事項、課題の共通、技術常識、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟、機械構造系】
(容易想到性)
「 取消事由(相違点2についての判断の誤り)について
(1) 相違点2は,「本願発明においては,オリフィスの出口部の反対側の金属多孔性の材料の外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成したのに対し,引用発明においては,ガス導入孔7の出口部の反対側の焼結フィルタ31の外面が,ベースボディ202に形成された孔21を介して大気に開放されている点」であるところ,原告は,当業者が引用発明,周知技術,技術常識に基づき,相違点2に関する構成を容易に想到し得たとの審決の判断は誤りであると主張する。
そこで,検討するに,本願発明事項に係る「面状」,「露出」及び「開放」という用語は,本願明細書では用いられていないので,同明細書からは,直ちにこれらの語の意義は明らかにならない。そこで,本願発明の実施例である本願明細書の図7(b),図8(a)及び図8(b)を参照すると,図7(b)においては,オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面(底面)の一部が噴射ヘッド1Jを構成する部材の一部に覆われ,他の部分が開口を介して大気と通気可能に配設されていることが図示されている。そうすると,本願発明の「面状」とは,オリフィスの出口部の反対側に位置する材料7の外面の全部を意味するものではなく,ある程度以上の面積をもち,面として認識できるものを意味すると解することができる。
他方,引用発明は,本願発明と同様に,ガス系消火システムの消音ノズルに関する発明であり,消火ガスを放出する際に発生する騒音の軽減を課題とするものであるから,その技術分野及び解決すべき課題は,本願発明と共通しているものと認められる。また,引用発明においては,本願発明の材料7に相当する焼結フィルタ31及び32が配設され,オリフィスに相当する開口207の出口部の反対側に位置する焼結フィルタ31の外面(底面)は,ベースボディ202で押さえられ,複数の孔21により大気に露出,開放されているが,引用発明の孔21は小さなものであり,その開口部が面として認識するに足る面積を備えているとまではいうことはできない。
ところで,本願発明の図7(b)の噴射ヘッド1Jの底部に設けられた開口部及び引用発明の孔21は,いずれもガスの流路となる開口部である。前記認定のとおり,引用文献4には,「フローダウン用,安全弁用といった蒸気や空気の放風用消音器の改良に関する考案」が記載されているところ,「従来の多孔ディフューザ10では,ディフューザの発生音は開口部を通過する流速で支配され,多孔ディフューザ10での発生音を小さくするためには,十分大きな開口面積をとる必要がある。」,「抑えの多孔板6を通過する流速はできる限り小さくする方が発生音は小さくなり,その開口面積は少なくとも全量放風時のチョーク断面積以上とする必要がある」と記載され,これによると,蒸気や空気のような気体である流体が通過する際の流速が一定であれば,多孔板の開口面積を大きくすることにより,発生する騒音を小さくすることができるとの技術常識が存したことが理解できる。そして,この技術常識は,フローダウンや安全弁等の放風用の消音器に限定されるものではないことも,当業者であれば当然に理解するところであると解される。
そうすると,当業者であれば,こうした技術常識を踏まえ,騒音を低減するという課題を解決するため,引用発明の孔21について一定の開口面積を確保して,発生音が小さくなるように設計するものと考えられ,その際に,ガスの流路となる開口部をどのようなものとするかは設計上の事項にすぎないというべきである。 したがって,当業者が,引用発明の孔21を小数又は1つの孔を開口として,焼結フィルタ31の「外面が面状に大気に露出,開放されてなるように配設して構成」することを容易に想到し得たものということができる。 」
コーアツ
(知財高裁2部森判事、平成29年8月8日)
(2017.8.23. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-08-23 21:24
| 特許裁判例
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