2018年 04月 04日
著作 平成29年(ワ)672号 同人誌イラスト事件(翻案権) |
◆写真素材をイラスト化して同人誌に使った件で、翻案権侵害に該当するかが争われた事件。該当せず。
【イラスト化、本案件、著作権法27条、本質的部分の直接感得、平成29年(ワ)14943号】
(翻案権侵害)
「2 争点(3)(被告は本件写真素材に係る著作権を侵害したか)について
(1) 原告は,被告が本件写真素材を原告に無断でトレースし,小説同人誌の裏
表紙のイラストに使用して,当該小説同人誌を販売した行為は,原告の本件
写真素材に係る著作権(複製権,翻案権及び譲渡権)を侵害していると主張
する。 15
(2) 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再
製することをいうところ(著作権法2条1項15号参照),著作物の複製と
は,既存の著作物に依拠し,これと同一のものを作成し,又は,具体的表現
に修正,増減,変更等を加えても,新たに思想又は感情を創作的に表現する
ことなく,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持し,これに接する者が
既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作
成する行為をいうものと解すべきである。また,翻案とは,既存の著作物に
依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表
現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現する
ことにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接
感得することができる別の著作物を創作する行為をいうものと解すべきであ
る(最高裁判所平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷
判決・民集55巻4号837頁参照)。
(3) 本件イラストは,別紙2のとおりのものであり,A5版の小説同人誌の裏
表紙にある3つのイラストスペースのうちの一つにおいて,ある人物が持つ
雑誌の裏表紙として,2.6センチメートル四方のスペースに描かれている
白黒のイラストであって,背景は無地の白ないし灰色となっており,薄い白
い線(雑誌を開いた際の歪みによって表紙に生じる反射光を表現したもの)
が人物の顔面中央部を縦断して加入され,また,文字も加入されているもの
である。
(4) 前記1(2)で説示した本件写真素材の創作性を踏まえれば,本件写真素材
の表現上の本質的特徴は,被写体の配置や構図,被写体と光線の関係,色彩
の配合,被写体と背景のコントラスト等の総合的な表現に認められる。一方,
前記前提事実(3)のとおり,本件イラストは本件写真素材に依拠して作成さ
れているものの,本件イラストと本件写真素材を比較対照すると,両者が共
通するのは,右手にコーヒーカップを持って口元付近に保持している被写体
の男性の,右手及びコーヒーカップを含む頭部から胸部までの輪郭の部分の
みであり,他方,本件イラストと本件写真素材の相違点としては,①本件イ
ラストはわずか2.6センチメートル四方のスペースに描かれているにすぎ
ないこともあって,本件写真素材における被写体と光線の関係(被写体に左
前面上方から光を当てつつ焦点を合わせるなど)は表現されておらず,かえ
って,本件写真素材にはない薄い白い線(雑誌を開いた際の歪みによって表
紙に生じる反射光を表現したもの)が人物の顔面中央部を縦断して加入され
ている,②本件イラストは白黒のイラストであることから,本件写真素材に
おける色彩の配合は表現されていない,③本件イラストはその背景が無地の
白ないし灰色となっており,本件写真素材における被写体と背景のコントラ
スト(背景の一部に柱や植物を取り入れながら全体として白っぽくぼかすこ
とで,赤色基調のシャツを着た被写体人物が自然と強調されているなど)は
表現されていない,④本件イラストは上記のとおり小さなスペースに描かれ
ていることから,頭髪も全体が黒く塗られ,本件写真素材における被写体の
頭髪の流れやそこへの光の当たり具合は再現されておらず,また,本件イラ
ストには上記の薄い白い線が人物の顔面中央部を縦断して加入されているこ
とから,鼻が完全に隠れ,口もほとんどが隠れており,本件写真素材におけ
る被写体の鼻や口は再現されておらず,さらに,本件イラストでは本件写真
素材における被写体のシャツの柄も異なっていること等が認められる。これ
らの事実を踏まえると,本件イラストは,本件写真素材の総合的表現全体に
おける表現上の本質的特徴(被写体と光線の関係,色彩の配合,被写体と背
景のコントラスト等)を備えているとはいえず,本件イラストは,本件写真
素材の表現上の本質的な特徴を直接感得させるものとはいえない。 」
(東京地裁47部沖中裁判長、平成30年3月29日)
(2018.4.4. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2018-04-04 14:04
| 著作権法
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