2018年 05月 15日
◆不正競争防止法2条1項3号(デッドコピー形態模倣禁止規定)について少しまとめ |
【不競法2条1項3号、デッドコピー、商品の形態、形態模倣、依拠、実質的同一、論点、解釈】
◆条文(不正競争防止法2条)
◆ 何?
・他人の商品形態を"模倣"したもの(デッドコピー品)を売ったりすることを禁止する規定(不競法2条1項3号)。
・”形態の実質的同一性”+”依拠性”(§2⑤)
◆「実質的に同一」(§2⑤)の範囲?
(1)同一 + 酷似
(2)判断手法は?
・「「実質的同一性」は,同種の商品間における商品の形態を比較し,商品の形態全体から見て重要な意味を有する部分(独自的要素の部分)が実質的に同一であるかどうかによって判断される(対比観察,全体観察)。」(逐条H27、39頁)
・「そして,「実質的に同一の形態」であるか否かは,当該商品の需要者が通常の用法に従った使用に際して知覚によって認識できる,同種の商品の属する分野や同種の商品の形状の特徴との比較等を考慮して判断すべきである(この点,本件では,原告商品と被告商品は,いずれも防災用品を収納運搬する防災用バッグであるから,需要者は,その収納力や扱いやすさ,どのような物を,どのくらいの量収納できるか〔耐久性も含む〕を考慮した商品の形状,その形状に結合した模様,色彩に着目するものと解される。)。」(防災用バッグ、平成26年(ワ)25645号)
・「一般論を述べることは難しいが、原告商品の形態における特徴的部分を被告商品も共通して有している場合には、見る者の目を引かないような部分において相違点が存在していても「実質的に同一」と判断することができるというべきであろう。」(三村量一、知的財産法の理論と実務[2007]、296頁)
◆相違点があるときにどのように評価して”実質的同一”か否かを判断するか?
・「…相違がわずかな改変に基づくものであって、酷似しているものと評価できるような場合には、実質的に同一の形態であるというべきであるが、当該改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変による形態的効果等を総合的に判断して、当該改変によって相応の形態上の特徴がもたらされ、既に存在する他人の商品の形態と酷似しているものと評価できないような場合には、実質的に同一の形態とはいえないものというべきである。」(ドラゴン・ソード事件控訴審)
・「…相違する部分があるとしても,その相違がわずかな改変に基づくものであって,商品の全体的形態に与える変化が乏しく,商品全体から見て些細な相違にとどまると評価される場合には,当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。これに対して,当該相違部分についての着想の難易,改変の内容・程度,改変が商品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに,当該改変によって商品に相応の形態的特徴がもたらされていて,当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否の上で無視できないような場合には,両者を実質的に同一の形態ということはできない。」(ショルダーバック事件)
◆ そもそも2条1項3号で保護される”商品の形態”とは?
(1)「形態」のボーダライン
・外部形状だけでなく内部形状も…○ (§2④、但し視認できるもの)。
・光沢、質感など…○(§2④)。
・商品の容器や包装…△
※「商品自体と結合して一体となっていて…切り離しえない…場合には、「商品の形態」に含まれると解し得る」(逐条H27、39頁)
・部品…△
※「部品自体が「独立に取引の対象となっている場合」には…保護が及ぶ。」(逐条H27、39頁)
※ ケースバイケースで説が分かれる(詳しくは小野・新不正競争防止法概説 256頁)
・ありふれた商品形態…×
※「特定の者に専用させるべきではないため、このような商品形態を模倣していても不正競争にならない」(逐条H27、39頁)
・タイプフェイス、データ…×(∵無体物)
(2)セット商品・組合せ商品
● 裁判例 タオルセット事件(平成 7年 (ワ) 10247号 大阪地裁平成10年9月10日)
・判決文:
「…弁論の全趣旨によれば、原告商品と被告商品の具体的形態は、包装箱又は籐カゴに収納された状態において別紙原被告商品比較表二のとおりであると認められる。なお、これらの商品は、いずれも包装箱又は籐カゴに収納された状態で展示され、購入されるのであるから(甲第一、二号証)、その形態は、右収納状態のものを中心にとらえるのが相当である。」(小松一雄裁判長)
● 裁判例 宅配寿司事件(東京地裁 平成13年9月6日、平成12年(ワ)17401号)
・判決文:
「宅配鮨については,一般論としては,使用する容器,ネタ及び添え物の種類,配置等によって構成されるところの1個1個の鮨を超えた全体としての形状,模様,色彩及び質量感などが商品の形態となり得るものであって,容器の形状や,これに詰められた複数の鮨の組合せ・配置に,従来の宅配鮨に見られないような独自の特徴が存するような場合(例えば,奇抜な形状の容器を用いた場合や,特定の文字や図柄など何らかの特徴的な模様を描くように複数の鮨を配置した場合)には,不正競争防止法による保護の対象たる「商品の形態」となり得るものと解される。」(三村裁判長)
・規範としては、「使用する容器、ネタ及び添え物の種類、配置などによって構成される…全体の形状、模様、色彩及び質感などが「商品の形態」になりうるものであるとした」(小野・新不正競争防止法概説 252頁)
● 裁判例 トリートメントブラシ事件(大阪地裁平成15年8月28日)
・ 実質的同一と認定(「…しかし、これらの相違点は、いずれも微細な差異にとどまり、原告商品と被告商品の形態が、基本的構成及び各構成要素の配置位置において細部に至るまでほぼ共通であることに照らせば、原告商品と被告商品の形態は、これらの相違点を考慮したとしても、全体として、実質的に同一であるというべきである。」)
・外国の商品…○(新裁判実務大系[牧野/飯村]、460頁)
◆先行の他社製品を知っている→ デッドコピーからの回避/離脱
・「…そもそも本号における模倣はまさにデッドコピーをいうものと解するべきであり、先行商品の形態を認識していても、いろいろの差異点となる要素を組み合わせてデッドコピーから離脱することは許されるというべきであることなどを考えると…」、「双頭の竜であるという独自の形態を有するY商品は、X商品と実質的に同一であるとすることはできないというべきであろう。」(意匠商標不正競争判例百選(2007)、ドラゴンソード事件解説、岡本)
◆ 論点&その他 いろいろ
(1-1)意匠法の類否判断との関係は…?
・「意匠権の場合のように、いわゆる要部観察によるべきか否かは争いがあるが、本号は創作性を保護するものではないから、「通常有する形態」を除いて全体観察を原則とすべきである…。」(新裁判実務大系[牧野/飯村]、464頁)
(1-2)意匠の類否判断のような”特徴部分抽出”を§2①3で行う場合の問題について
・「たとえば、意匠や著作物であれば…創作的な部分か否かを基準として特徴部分を抽出することができる…。これに対して、法2条1項3号において…形態が保護されるのは…創作性や顧客吸引力や周知・著名性があるという理由からではなく、投資および開発コストを回収…という政策的理由からである。…先行商品のどの部分が、保護に値する特徴的部分であるかを抽出する基準を設けることは難しいこととなる。」、「結局、法2条1項3号立法趣旨に鑑みれば、「実質的同一」の幅はさほど広いものではなく、先行商品と後行商品の全体形状を構成する各要素のほどんどすべてが共通であるような場合を指すと解するほかはない。」(判例百選(2007)、タオルセット事件解説、飯村)
(2)”ありふれた形態”っていうけど、「部分」のことを言っているのか or「全体」としてありふれてないとダメなのか…?
☞ 防災用バッグ事件(平成26年(ワ)25645号)
・”全体”を規範としつつ判断では共通点①~⑧のうちの4つを個別的に”ありふれた形態”と認定。
「そして,同号が「商品の形態」を法的に保護しようとする趣旨は,他人が資金,労力を投下して商品化した商品の形態を他に選択肢があるにもかかわらずことさら模倣した商品を,自らの商品として市場に提供し,その他人と競争する行為は,模倣者においては商品化のための資金,労力や投資のリスクを軽減することができる一方で,先行者である他人の市場における利益を減少させるものであり,事業者間の競争上不正な行為として位置付けるべきものとしたことにあると解されるから,同号によって保護される「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,そもそも,同号により保護される「(他人の)商品の形態」に該当しないと解すべきである。」
☞ 個々の部分がありふれているかではなく、全体を見るべきとした裁判例。
・「…「商品の形態」とは,商品全体の形態をいい,その形態は必ずしも独創的なものであることを要しないが,他方で,商品全体の形態が同種の商品と比べて何の特徴もないありふれた形態である場合には,特段の資金や労力をかけることなく作り出すことができるものであるから,このようなありふれた形態は,同号により保護される「商品の形態」に該当しないと解すべきである。\そして,商品の形態が,不競法2条1項3号による保護の及ばないありふれた形態であるか否かは,商品を全体として観察して判断すべきであり,全体としての形態を構成する個々の部分的形状を取り出してそれぞれがありふれたものであるかどうかを判断し,その上で,ありふれたものとされた各形状を組み合わせることが容易かどうかによって判断することは相当ではない。 」(ニンテンドーDSストラップ付タッチペン事件)。
◆「商品の機能を確保するために不可欠な形態」であれば”商品の形態”から除外される
・逐条改正に挙がっている例…コップの壁面&底
「② コップの形態として,中に液体を入れるためには側面と底面を有しているのは商品の機能を確保するために不可欠な形態である。しかし,コップの縁の形状や側面の模様が特徴的であるような場合,このような特徴的な部分まで模倣することは「不正競争」に該当する。 」(逐条72頁)。
◆裁判例:
☞ 平成8年11月28日(ドレンホース)大阪地裁
・「外部に顕れない内部構造にとどまる限りは「商品の形態」に当たらない」(逐条H27、40頁)。
☞ 平成10年2月26日(ドラゴン・ソード)東京高裁
・双頭の竜というのが他のキーホルダに認められず独自の形態特徴と認定。
☞ 平成13年1月30日(小型ショルダーバッグ)東京地裁
・改変あったが実質的同一を認めた。
☞ 平成14年6月28日(防災平板瓦)平14(ワ)142 名古屋地裁
・基本的な形態は同じだが、酷似とまではいえない。
☞ 平成14年10月29日(遠赤外線暖房機)平13(ワ)15047 東京地裁
・基本的な形態は同じだが、酷似とまではいえない。
☞ 平成15年7月9日 (六角形形状棚事件)H15(ワ)127号 大阪地裁
・ありふれた家具、§2①3該当せず。
☞ 平成17年12月5日(スリーブ型カットソー)H17(ネ)10083号 知財高裁
・部分を取出しありふれているかを個別評価するのではなく、全体で判断。
◆おまけ
(1)「データ」を不競法で保護べき?
・小泉直樹 ”データ、書体、意匠、組版面”も保護すべき対象に挙げている話し(田村、概説、285頁)。
(2)不競法経緯
・木目化粧紙事件(東京高裁平成3年12月7日)…民709 but 差止めは×
◆参考書籍&サイト
(1)経産省 ポータルサイト
◆Q&A
Q1. ソフトウェアは「商品の形態」に該当する(§2①3デッドコピー規定で保護される?)
→ されない 【注(2019/5/15)】
∵ 「特定の媒体中に固定されない「コンピュータ・ソフトウェア自体」や「データベース自体」などは、…保護対象には含まれない。」(小野・新不正競争防止法概説 257頁)
Q2. 機能やアイディアの模倣は?
→ 2条1項3号の保護対象ではない
∵ 「過度な競争制限」、「社会的コンセンサス(が形成されていない)」(小野・新不正競争防止法概説 257頁)
Q3. 動物ぬいぐるみの背中にファスナーを付けたような「シリーズ商品」は?
→ 保護対象ではない(ミニチュアリュック(プチリュック)事件 東京地裁平成9年6月27日)
◆Memo:
・形態に共通点があったとしても、それが、同種製品に一般的に備わっている形状、ありふれた形状であれば、実質的同一・酷似に向かうトリガにはならない。
(2017.3.7. 弁理士 鈴木学)
(2018.5.15. 追記)
by manabu16779
| 2018-05-15 12:17
| 不正競争防止法
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