2017年 09月 26日
商標 平成28年(行ケ)10262号 ミズノ・ランバード商標事件(4条1項15号) |
◆出願に係る図形商標が、ミズノ・ランバードの図形商標との間で出所混同のおそれを生じるか(4条1項15号)が問題となった事件。引用商標の周知性等を考慮し、4条1項15号に該当すると判断、審決取消し。
【4条1項15号、出所混同のおそれ、誤認、引用商標の周知著名度、想定される使用の態様、ワンポイントマーク、商標の類似性、著名性、独創性、需要者】
(4条1項15号)
「1 取消事由2(商標法4条1項15号該当性判断の誤り)について
原告は,本件商標が商標法4条1項15号に該当しないとした審決の認定判断は誤りであると主張するので,以下,検討する。
(1) 商標法4条1項15号にいう「他人の業務に係る商品又は役務と混同を生ずるおそれがある商標」は,当該商標をその指定商品等に使用したときに,当該商品等が他人との間にいわゆる親子会社や系列会社等の緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある営業主の業務に係る商品等であると誤信されるおそれ,すなわち,いわゆる広義の混同を生ずるおそれがある商標をも包含するものであり,同号にいう「混同を生ずるおそれ」の有無は,当該商標と他人の表示との類似性の程度,他人の表示の周知著名性及び独創性の程度や,当該商標の指定商品等と他人の業務に係る商品等との間の関連性の程度,需要者の共通性その他取引の実情などに照らし,上記指定商品等の需要者において普通に払われる注意力を基準として,総合的に判断すべきである(最高裁平成10年(行ヒ)第85号同12年7月11日第三小法廷判決・民集54巻6号1848頁参照)。
(2) 本件商標と引用商標との対比
審決は,本件商標の構成について,前記第2の2(3)のとおり認定した上で,引用商標と対比し,両者は,前記同1)から5)の差異を有し,また,本件商標が何らモチーフを特定できないものであるのに対し,引用商標は鳥をモチーフとしたものとの印象を与えるものであるから,その構成全体から受ける印象も相違すると判断した。これに対し,原告は,本件商標と引用商標の構成についての審決の認定に誤りがあることを前提に,本件商標と引用商標とは多数の共通点があり,審決の認定した上記差異1),3)~5)については,微差であり,2)については,本件商標と引用商標の特徴的部分ではなく,また,取引の実情等を考慮すると,2)の差異があることによって,出所の混同を生じるおそれがないとはいえないなどと主張する。
ア 本件商標と引用商標の構成
本件商標の構成
本件商標は,前記のとおりの図柄であり,左右の上方に位置する二つの辺の端を互いに交わることのない二本の曲線で結んだ横長の図形を黒塗りしたものであるところ,その左右の辺は,左を右の7倍ほどの長さにし,それぞれがハの字型に下方に向けて広がり,図形中央下部は,キセルの雁首のように湾曲して描かれており,左上部の辺と二本の曲線とが接する部分は角が丸められている構成からなるものであって,本件商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。
引用商標の構成
引用商標は,前記のとおりの図柄であり,左右の上方に位置する二つの辺と下部に位置する辺の端をそれぞれ互いに交わることのない曲線で結んだ横長の図形を黒塗りし,その中央部に逆三角形状の白抜き部分を有するものであるところ,その左右の辺は,左を右の6倍(引用商標1)又は4倍(引用商標2)ほどの長さにし,それぞれが左方向に傾斜し,底部に水平の直線を有するものであって,三つの辺とそれぞれを結ぶ曲線とが接する部分は角が尖っている構成からなるものであって,引用商標の基本的な構成は,概ね,審決が認定したとおりであるといえる。
イ 本件商標と引用商標との異同
審決が認定したとおり,本件商標と引用商標とは,左右の上方に,左をより長くした長さの異なる二つの辺を有すること,その左右の辺の端を結ぶ曲線又は直線により図形の外形が形成されていることなどの点で共通するものであるが,構成各部分において,1)底部における曲線と直線の差異(辺の数の差),2)図形の内部における白抜き部分の有無の差,3)それぞれの辺から延びる曲線の傾斜の差,4)右上部の辺の傾斜方向の差,5)左上部の辺と曲線の接する部分の角(尖っているか丸まっているかの差)の差異などを有することに加え,被告が指摘するように,本件商標は,引用商標よりも縦幅が短く,本件商標と引用商標とは縦横比が相違することから,引用商標と比較して,平たい印象を受けることなどの差異を有することが認められる。以上のような差異,特に,2)図形の内部における白抜きの逆三角形部分の有無を考慮すると,本件商標と引用商標とを直接対比した場合の視覚的印象は別異のものということもできる。
しかしながら,本件商標及び引用商標の全体的な構図をみると,本件商標と引用商標は,いずれも,その全体の図柄として左端に比して右端が高くなるように右上方に傾斜しており,左上部分には右上方向に傾斜している直線があり,その傾斜直線の左端から鋭角に中央下部へ延びる曲線があり,また,上記傾斜直線の右端から鋭角に左下方向へ向かうとともに,弧を描きながら湾曲して右上がりに緩やかな曲線が延びており,その曲線の終点である右上部から中央部に向けて曲線が延びている構成を有するものといえる。そして,上部の左端から右方向に延びる直線の傾斜角度及び湾曲した部分の下から右端に向かって上方に傾斜している曲線の傾斜角度は比較的類似していること,上記湾曲部の深さの比率や傾きの度合いも類似していること,本件商標と引用商標の左側部分における,それぞれの最も厚い部分の幅はほぼ同じであることなどの点において,本件商標と引用商標とは共通するものであり,本件商標の全体的な配置や輪郭等については,引用商標(特に上側部分)と比較的高い類似性を示すものであるということができる。
(3) 引用商標の周知著名性
証拠(甲6~81,118~125)及び弁論の全趣旨によれば
…略…
このように,本件商標がワンポイントマークとして表示される場合などを考えると,ワンポイントマークは,比較的小さいものであるから,そもそも,そのような態様で付された商標の構成は視認しにくい場合があるといえる。また,マーク自体に詳細な図柄を表現することは容易であるとはいえないから,スポーツシャツ等に刺繍やプリントなどを施すときは,むしろその図形の輪郭全体が見る者の注意を惹き,内側における差異が目立たなくなることが十分に考えられるのであって,その全体的な配置や輪郭等が引用商標と比較的類似していることから,ワンポイントマークとして使用された場合などに,本件商標は,引用商標とより類似して認識されるとみるのが相当である(本件商標と引用商標の差異のうち,比較的特徴的であるといえる白抜きの逆三角形部分についても,外観において紛れる場合が見受けられる。)。さらに,多数の商品が掲載されたカタログ等や,スポーツの試合観戦の場合などにおいては,その視認状況等を考慮すると,特に,外観において紛れる可能性が高くなるものといえる。
また,本件商標の指定商品は,「被服」を始め「帽子,メリヤス靴下,スカーフ,サンダル靴,ティーシャツ」等であり,日常的に消費される性質の商品が含まれ,
スポーツ用品(運動用具)関連商品を含む本件商標が使用される商品の主たる需要者は,スポーツの愛好家を始めとして,広く一般の消費者を含むものということが
できる。そして,このような一般の消費者には,必ずしも商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者も多数含まれているといえ,商品の購入に際し,メーカー名やハウスマークなどについて常に注意深く確認するとは限らず,小売店の店頭などで短時間のうちに購入商品を決定するということも少なくないと考えられる。
(6) 混同を生ずるおそれについて
本件商標と引用商標は,全体的な構図として,配置や輪郭等の基本的構成を共通にするものであり,本件商標が使用される商品である被服等の商品の主たる需要者が,商標やブランドについて正確又は詳細な知識を持たない者を含む一般の消費者であり,商品の購入に際して払われる注意力はさほど高いものとはいえないことなどの実情や,引用商標が我が国において高い周知著名性を有していることなどを考慮すると,本件商標が,特にその指定商品にワンポイントマークとして使用された場合などには,これに接した需要者(一般消費者)は,それが引用商標と全体的な配置や輪郭等が類似する図形であることに着目し,本件商標における細部の形状(内側における差異等)などの差異に気付かないおそれがあるといい得る。
また,引用商標は,スポーツ用品(運動用具)関連の商品分野において,原告の商品を表示するものとして,需要者の間において著名であるところ,本件商標の指
定商品には,引用商標の著名性が需要者に認識されているスポーツ用品(運動用具)関連の商品を含むものであるから,本件商標をその指定商品に使用した場合には,これに接する需要者は,著名商標である引用商標を連想,想起して,当該商品が原告又は原告との間に緊密な営業上の関係又は同一の表示による商品化事業を営むグループに属する関係にある者の業務に係る商品であると誤信するおそれがあるものというべきである。
したがって,本件商標は,商標法4条1項15号に該当するものとして商標登録を受けることができないというべきであるから,これと異なり,本件商標が同号に
該当しないとした審決の判断には誤りがあるといわざるを得ない。 」
美津濃
(知財高裁1部清水判事、2017年9月13日)
(2017.9.26. 弁理士 鈴木学)
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by manabu16779
| 2017-09-26 17:00
| 商標
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