2015年 11月 01日
特許【最判】プロダクトバイプロセスクレーム(最判平27年6月5日) |
【プロダクトバイプロセス、技術的範囲、特許法70条、物のクレーム、物同一説】
◆判決文(平成24年(受)第1204号 )
「したがって,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法
が記載されている場合であっても,その特許発明の技術的範囲は,当該製造方法に
より製造された物と構造,特性等が同一である物として確定されるものと解するの
が相当である。
(2) ところで,特許法36条6項2号によれば,特許請求の範囲の記載は,
「発明が明確であること」という要件に適合するものでなければならない。特許制
度は,発明を公開した者に独占的な権利である特許権を付与することによって,特
許権者についてはその発明を保護し,一方で第三者については特許に係る発明の内
容を把握させることにより,その発明の利用を図ることを通じて,発明を奨励し,
もって産業の発達に寄与することを目的とするものであるところ(特許法1条参
照),同法36条6項2号が特許請求の範囲の記載において発明の明確性を要求し
ているのは,この目的を踏まえたものであると解することができる。この観点から
みると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載
されているあらゆる場合に,その特許権の効力が当該製造方法により製造された物
と構造,特性等が同一である物に及ぶものとして特許発明の技術的範囲を確定する
とするならば,これにより,第三者の利益が不当に害されることが生じかねず,問
題がある。すなわち,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲において,そ
の製造方法が記載されていると,一般的には,当該製造方法が当該物のどのような
構造若しくは特性を表しているのか,又は物の発明であってもその特許発明の技術
的範囲を当該製造方法により製造された物に限定しているのかが不明であり,特許
請求の範囲等の記載を読む者において,当該発明の内容を明確に理解することがで
きず,権利者がどの範囲において独占権を有するのかについて予測可能性を奪うこ
とになり,適当ではない。
他方,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲においては,通常,当該物
についてその構造又は特性を明記して直接特定することになるが,その具体的内
容,性質等によっては,出願時において当該物の構造又は特性を解析することが技
術的に不可能であったり,特許出願の性質上,迅速性等を必要とすることに鑑み
て,特定する作業を行うことに著しく過大な経済的支出や時間を要するなど,出願
人にこのような特定を要求することがおよそ実際的でない場合もあり得るところで
ある。そうすると,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造
方法を記載することを一切認めないとすべきではなく,上記のような事情がある場
合には,当該製造方法により製造された物と構造,特性等が同一である物として特
許発明の技術的範囲を確定しても,第三者の利益を不当に害することがないという
べきである。
以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方
法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項
2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時
において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又
はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当であ
る。」
◆外内案件で拒絶理由が来た時の英訳お助け
プロダクト・バイ・プロセスクレームの§36違反拒絶理由の英訳テンプレ
(1)拒絶理由通知の記載
『ここで、物の発明に係る請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、当該請求項の記載が特許法第36条第6項第2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(「不可能・非実際的事情」)が存在するときに限られると解するのが相当である(最判平成27年6月5日 平成24年(受)第1204号、同2658号)。』
↓
(2)最高裁判決文の一部抜粋
『以上によれば,物の発明についての特許に係る特許請求の範囲にその物の製造方法が記載されている場合において,当該特許請求の範囲の記載が特許法36条6項2号にいう「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは,出願時において当該物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか,又はおよそ実際的でないという事情が存在するときに限られると解するのが相当である。』
↓
(3)PBP最高裁の英訳文(最高裁のホームページ掲載のもの)の対応箇所一部抜粋
”According to the above, it is appropriate to construe that when a claim of a patent for an invention of a product recites the manufacturing process of the product, the recitation of the claim should be held to meet the requirement that the claimed invention is clear as prescribed in Article 36, paragraph (6), item (ii) of the Patent Act, only if there are circumstances where it was impossible or utterly impractical to directly define the product subject to the invention by means of its structure or characteristics at the time of the filing of the application (see 2012 (Ju) No. 1204, judgment of the Second Petty Bench of the Supreme Court of June 5, 2015, to be published in Saibansho Jiho No. 1629).”
◆出願人の対応部分(JPOホームページ掲載の英訳より)
”The applicant can file other responses as arguments against a notice of reasons for refusal in order to resolve such reasons, including:
(i)deleting any claim concerned,
(ii) amending any claim concerned into a claim concerning an invention of a process for producing a product,
(iii) amending any claim concerned into a claim concerning an invention of a product which does not include a manufacturing process, and/or
(iv) asserting and proving the existence of "impossible or impractical circumstances" based on a written argument.”
◆プロダクトバイプロセス最高裁判決の関連リンク&実務メモ
(1-1)特許庁 審査の取扱い
・こちらは英語版
(1-2)不可能・非実際的事情の主張立証の例(平成27年11月25日に追加)
・英語版
(2-1)判決文 (平成24年(受)第1204号 平成27年6月5日 第二小法廷判決)
(2-2)英訳 最高裁ホームページ
(3)特許研究(2015年9月)
(4)L&T No.69(目次のみ)
【実務メモ】
●外国案件でPBP§36⑥2拒絶を受領 (平成27年10月27日)
・「前記○○成分は、△△から得られるものである、XX記載のシステム。」
(2015.11.19 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2015-11-01 00:10
| 最高裁判例
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