2015年 11月 28日
不競 平成27年(ワ)27号 DHCvs.DHC-DS事件 |
◆商標権侵害&不正競争防止法に基づく差止請求が問題となった事件。非類似。
【商標、不使用取消、取引実情、権利の濫用、結合商標、不正競争防止法、2条1項1号、2条1項2号、2条1項12号】
◆不競法2条1項1号について
「(1) 不正競争防止法2条1項1号における類否
ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似するか否かについては,取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準として判断するのが相当である(最高裁昭和57年(オ)第658号同58年10月7日第二小法廷判決・民集37巻8号1082頁参照)。以上を前提に,原告表示と被告表示の類否を検討する。
ア 外観
まず,…原告表示は基本的には欧文字3字という文字数の少ない単純な構成であるのに対し(原告表示①及び③),被告表示の中心的構成である「DHC-DS」は5字の構成であり,「-(ハイフン)」を考慮すると 全 体 の 長 さ が 異 な り ( 被 告 表 示 ① 及 び ③ ) , 「 Battery EnergyManagement Solutions」という商品の分野を想起させる文字も記載されていることから(被告表示③),全体として異なるものといわざるを得ない。
イ 称呼
原告表示の①,②及び③は,いずれも「ディーエイチシー」との称呼を有するものと認められる。他方,被告表示の①及び②は,いずれも「ディーエイチシーディーエス」との称呼を有するものと認められ,…原告表示と被告表示の称呼を比較すると,上記アと同様に,全体として異なるものといわざるを得ない。
ウ 観念
(ア) 原告表示の①及び③は欧文字3字から成り(なお,原告表示の②はこれを読み下したものである。),造語であると認められ,何らの観念も生じない。他方,被告表示…造語であると認められ,何らの観念も生じない。
(イ) ところで,原告は,これまで原告が「DHC」などの原告表示を用いて大規模な宣伝活動を行っており,現に各種の売上高ランキング等でも上位にあることなどを指摘している。そうすると,これらを前提とする限りは,「DHC-DS」などの被告表示についても,ここから観念される営業主体が原告に限られるように思われなくもない。
しかし,原告の大規模な宣伝活動は,原告の提出する書証によっても,化粧品,健康食品,アパレル等の分野に限られており(甲13の1~7,13~18),…過去及び現在を通じて,バッテリーテスター等の製造・販売事業を行っておらず,その事業分野に参入する具体的な事業計画があることをうかがわせる証拠もない。
他方,前記1で認定したとおり,台湾DHCはその設立から30年近くを経ており,…営業主体として台湾DHCや被告を想起する者は相当数存在するようにうかがわれる。
さらに,①株式会社クボタ…,②第一法規株式会社…他にも,化粧品等以外の分野では,「DHC」や「ディーエイチシー」等の文字を名称に含む会社が複数存在していること…なども考慮すると,少なくとも,「DHC-DS」との名称,「ディーエイチシーディーエス」との名称及び被告各標章からそれぞれ観念される営業主体について,これが原告だけに限られるとまではいうことができないという,取引の実情も存する。
エ 小括
以上の諸事情を総合考慮すれば,原告表示と被告表示とを比較した場合,上記取引の実情のもとにおいて,取引者又は需要者が両表示の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両表示を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるとまではいえない。
したがって,原告表示と被告表示との間に,不正競争防止法2条1項1号にいう類似性があるとまではいうことができない(なお,以上述べたところからすれば,同号にいう混同が生じているということもできない。)。」
◆不競法2条1項2号について
「(2) 不正競争防止法2条1項2号における類否
不正競争防止法2条1項2号における類似性の判断基準も,同項1号におけるそれと基本的には同様であるが,両規定の趣旨に鑑み,同項1号においては,混同が発生する可能性があるのか否かが重視されるべきであるのに対し,同項2号にあっては,著名な商品等表示とそれを有する著名な事業主との一対一の対応関係を崩し,稀釈化を引き起こすような程度に類似しているような表示か否か,すなわち,容易に著名な商品等表示を想起させるほど類似しているような表示か否かを検討すべきものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに,前記のとおり,原告表示と被告表示とは,外観,称呼においてそれぞれ全体として異なるものといわざるを得ない上,取引の実情についてみても,…被告はバッテリーテスター等については相当な製造,販売実績があること,原告以外にも「DHC」について商標権を取得したり,これを名称に含んだりする会社が複数存在していることなどを考慮すると,仮に原告表示に著名性が認められるとしても,被告表示において,容易に原告表示を想起させるほどこれに類似しているとまでいうことは困難である。
したがって,原告表示と被告表示との間に,不正競争防止法2条1項2号にいう類似性があるとまではいうことができない。」
◆不競法2条1項12号について
「3 不正競争防止法2条1項12号に基づく請求
上記2において説示したところに照らせば,原告表示及び原告ドメイン名と被告ドメイン名についても,これが類似しているということはできない(争点(3)ア)。なお,先に認定した台湾DHCの事業内容及び実績,バッテリーテスター等についての被告の輸入・販売実績等に照らせば,被告が被告ドメイン名を使用していることにつき,原告の社会的信用にフリーライドして不正の利益を得ようとする目的があるとも認め難い(争点(3)イ)。
いずれにせよ,原告の不正競争防止法2条1項12号に基づく請求は,理由がない。」
(2015.11.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2015-11-28 07:31
| 不正競争防止法
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