2015年 12月 28日
特許 平成25(ネ)10051号三菱重工印刷機侵害訴訟控訴審 |
◆訂正後の発明の進歩性が判断された結果§104の3に該当せず、権利侵害が認められた事件。
【進歩性、§29②、動機付け、設計的事項、技術的思想、課題解決原理、損害賠償、民709条、特102条、限界利益】
「乙29文献には,…基材裏面の表面粗さが20μm以上,好ましくは25~100μmとすることによって,平織物と樹脂層との複合シートであり,かつ版胴との接触面となる裏面に適度な凹凸があるため,圧縮弾性が大きく,版胴に対するフィット性が良好であり,高速印刷においてズレが発生するのを防止することができることが記載されているものと認められる。ここでの版胴とのズレの発生を防止するための解決原理は,基材として金属ではない平織物と樹脂層との複合シートを用い,かつその裏面に適度な凹凸をつけることによって,圧縮弾性を大きくし,版胴に対するフィット性を高めるというものであって,本件訂正発明2の解決原理である金属製の版胴の表面粗さを調整することによって,版と版胴間の摩擦係数を増加させるというものとは異なる。
したがって,乙29文献からは,金属製の版胴の表面粗さを調整することによって,版と版胴間の摩擦係数を増加させ,これにより版ずれトラブルを防止するという技術的思想を読み取ることはできず,乙29文献に,本件訂正発明2に係る版胴の表面粗さRmaxの構成が記載又は示唆されているということはできない。
エ 被控訴人の主張について
被控訴人は,本件訂正発明2は,版ずれトラブルの原因が版と版胴との摩擦係数にあることが乙29文献などで広く知られ,東日印刷版胴が存在した状況において,版胴の表面粗さをRmax≧6.0μmと更に粗くしたにすぎないものであるとして,表面粗さの程度は,設計的事項であって,本件訂正発明2に進歩性が認められるには,Rmaxの数値範囲に臨界的意義が必要である旨主張する。
しかしながら,前記イ及びウのとおり,東日印刷版胴や乙29文献に,版胴の表面粗さRmaxを調整することによって,版と版胴間の摩擦係数を増加させ,これにより版ずれトラブルを防止するということが開示されていると認めることはできず,他に本件特許2の出願当時上記事項が当業者に周知であったことを認めるに足りる証拠はないから,本件訂正発明2の規定する版胴の表面粗さRmaxの数値範囲が,当業者において適宜定めるべき設計的事項にすぎないとはいえない。
オ 前記イ及びウのとおり,東日印刷版胴(表面粗さを2.47~4.02μmとした版胴)には,版ずれトラブルの防止という課題や版と版胴のズレが版の裏面と版胴の表面との摩擦係数に影響されるとの知見は存せず,また,乙29文献にも,版ずれを防止するために版胴の表面粗さRmaxを調整するという技術的思想は存しないから,東日印刷版胴に,版ずれトラブル防止のために,乙29文献に記載された発明を組み合わせる動機付けがあるとは認められない。 …
以上によれば,本件訂正発明2は,東日印刷版胴に乙29文献に記載された発明を組み合わせることによって,容易に発明をすることができたものであるとは認められない。 」
◆Memo:
・一見 設計適事項と思える内容でも引用文献に共通の課題解決原理が開示示唆されているか?
(知財高裁第4部 高部裁判長 判◯)
(2015.12.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2015-12-28 15:54
| 特許裁判例
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