2016年 02月 08日
特許 平成27年(行ケ)第10046号 洋式便器 |
◆拒絶理由通知を出すことなく新たに「引用文献2」を加えて進歩性の判断をした審決が、手続背理に該当するかどうかが争われた事件。

【拒絶理由通知、引用文献の追加、設計的事項、特許法159条2項、50条但書、53条1項】

(規範部分)
「本件のように,拒絶査定不服審判において,特許請求の範囲の限定的減縮を目的とする補正が行われ,当該補正後の発明について独立特許要件を判断する場合に,審判官が,査定の理由とは異なる拒絶理由を発見し,その理由に基づいて当該補正を却下するという場合においては,前記(1)で述べたように,特許法の規定上は,審判官から特許出願人(審判請求人)に拒絶理由を通知しなければならないとはされていないが(特許法159条2項,50条ただし書,53条1項,17条の2第6項,126条7項),その具体的な事実関係のいかんによっては,あらかじめ審判請求人に対し当該拒絶理由を通知し,意見書の提出及び補正の機会を与えるのでなければ,審判請求人にとって酷な結果となり,その手続保障に欠け,適正手続の理念に反するものと評価される場合もあり得ると考えられる。 」
(当てはめ)
「そこで,本件拒絶査定の理由と本件審決の判断とを対比検討するに,本件拒絶査定の理由は,…引用例1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により特許を受けることができないとの理由がある。他方,本件審決は,本件補正発明について,引用例1に記載された発明及び引用例2の記載事項に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法29条2項により独立特許要件を欠くとして,本件補正を却下すべき旨判断している。
したがって,…引用発明1に基づき進歩性が欠如するとした点においては同一であるが,本件審決が本件拒絶査定の理由には挙げられていない引用例2の記載事項を加えて上記判断をしている点において異なるものである。
そして,本件審決は,引用発明1において,起立した閉部の先端から,閉部の下面と便座の下面とが対向するように前面側に便座を垂れ下がらせて,相違点に係る本件補正発明の構成とすることが当業者において容易に想到し得たことであるとの結論を導き出すに当たって,引用例2に開示された「蓋板が起立した際に,便座が蓋板の前面側に位置する」洋式便器の構成を適用したものである。
しかるところ,前記1(4)アで述べたとおり,引用発明1において,閉部が起立した際に,その後面側に折り畳まれている便座を,前面側に折り畳まれるようにし,便座が閉部の先端から前面側に垂れ下がる構成(相違点に係る本件補正発明の構成)とすることは,当業者が適宜行う設計的事項の範囲内のものにすぎないものといえるのであり,これを前提とすれば,引用例2は,引用発明1において相違点に係る本件補正発明の構成を採用するために不可欠の引用例として位置付けられるものではないというべきである。
以上のような引用例2の位置付けからすれば,本件審決が,本件拒絶査定には挙げられていない引用例2の記載事項を加えて本件補正発明の独立特許要件充足性を否定したことは,本件拒絶査定に対して,新たな公知文献を加え,実質的に異なる理由によって上記判断をしたものということはできない。
また,原告は,本件審判手続において提出した本件上申書(甲12)において,…などと記載して,引用例2について反論している。
してみると,本件審判手続において,審判官が,審判請求人である原告に対し引用例2の記載事項を加えた拒絶理由の通知を行わず,この点について原告に意見書の提出及び補正の機会を与えなかったからといって,原告の手続保障に欠けるものとはいえない。
以上によれば,本件審判手続において,審判官が原告に対し拒絶理由の通知をしなかったことについて,適正手続の理念に反し,手続上の違法があるとする原告の主張も理由がない。 」
(知財高裁3部 大鷹裁判長)
◆Memo
・設計的事項や周知技術と、追加された引用文献との関係。
・上申書での実質的な反論、手続保障の観点。
(2016.2.8. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-02-08 12:32
| 特許裁判例
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