2016年 02月 21日
特許 平成27(行ケ)10065号三井造船船舶拒絶審決取消訴訟 |
◆船舶の主要寸法の範囲を具体化した発明の進歩性の有無が争点となった事件。
【進歩性、特許法29条2項、寸法の具体化、動機付け、数値範囲、技術的意義】
「 船舶の設計に当たり,その主要寸法(長さ,幅,喫水等)を決定する際には,出入港を予定している港湾の制約から受ける長さや喫水の制限,通行する航路に存する運河等から受ける幅の制限を考慮する必要があるが,特に,パナマ運河を通行する航路である場合,通行可能な幅は最大で32.31mなので,船舶の設計において,幅を32.2mとし,全長は垂線間長さを250m以下とし,喫水は約12m前後とするのが,一般的であったことは,前記(3)のとおりである。
また,本願の出願時において,船長が190m程度,船幅が32m程度,喫水が13m程度の,いわゆるハンディマックス型のばら積み船は,一般に多用されたものであったと認められる(乙5~8)。
ところで,パナマ運河の現在の運航容量を大きくし,大型船の通行を可能とするために,パナマ運河を拡張する計画が存在すること,拡張計画が実現すると,船幅を48.8mとする大型の船舶(ポスト・パナマックス船)の通行が可能となることが,本願の出願時既に一般に知られていたものと認められる(乙11,12)。
他方で,パナマ運河が拡張され,現パナマックス幅よりも大きな船幅を有する船舶(ポスト・パナマックス船)のパナマ運河の通行が可能になるとしても,船舶が出入港する世界各地の港湾(本願発明がいうところの「中規模港湾」)が,ポスト・パナマックス船に適した港湾に整備されるわけではないことは,当業者にとって自明のことである。
そうすると,船舶の設計に際し,その主要寸法を決定するに当たって,載貨重量を増やすために,従来パナマックス型のばら積み船が出入港していた中規模港湾に出入港が可能な船長及び喫水としながら,船幅については,現パナマックス幅による制約を受けず,それよりも大きな船幅とする動機付けがあるといえる。
したがって,引用発明のバルクキャリアー(ばら積み船)について,その主要寸法を,ハンディマックス型の船長や喫水としつつ,船幅については,引用例2に記載された新造船「ISHIZUCHI」の概要を参考に36m程度とした船舶とすることは,当業者において容易に想到することができたことであるといえる。
そして,本願発明の「船の全長を162m以上200m未満で,計画最大満載喫水を12.0m以上13.5m未満とするとともに,船幅が32.31mを超えてかつ40.00m未満」との構成は,前記(1)のとおり,大きな載荷重量を有しながら,既存の中規模の港湾に出入り可能とするばら積み船の主要寸法を規定したにすぎないものであり,また,船の基本設計において,主要寸法(長さ,幅,喫水等)をそれぞれの長所及び短所を考慮しつつ適宜決定することは設計的事項であるといえるから,その数値範囲が格別の技術的意義を有するとはいえない。
以上によれば,引用発明において,引用例2に記載された情報を参考に,相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることは,当業者が容易に想到することができたというべきである。 」
(知財高裁4部 高部裁判長)
(2016.2.21. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-02-21 23:30
| 特許裁判例
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