2016年 05月 12日
特許 平成27年(行ケ)10027号 デジタル放送受信装置事件 |
◆デジタル放送の通信技術の発明に関し、引用文献1では想定されていない課題を解決するものである等を考慮し、知財高裁でも容易想到でないと判断された事件。
【進歩性、想定していない課題、自明な課題でもない、技術分野共通性、周知技術ではない、設計事項ではない、動機付け、スクランブル、NHK】
「そうすると,甲1A発明においては,サイマルクリプト運用下で,技術資料である甲1文献に記載された機能仕様に適合しない地上デジタルテレビジョン放送受信機等の設備が存在することにより,不具合が発生し,地上デジタルテレビジョン放送事業の適正な運用が妨げられるという事態は想定されていないものと解される。 また,甲1文献等には,サイマルクリプト運用下において,上記のような事態に対処すべきことが記載又は示唆されていない(前記のとおり,従来のデジタル放送受信装置は,現状運用されているICカードを用いた限定受信方式を想定した設計となっているため,複数の限定受信方式記述子の中から必ずしも自受信装置に適合した限定受信方式記述子を分離して,PIDを抽出する設計となっていない受信装置が多く存在し,サイマルクリプト方式を適用して,複数の限定受信方式記述子をPMTやCATに並列に記載された場合,自受信装置に適合しない限定受信方式記述子から誤ったPIDを抽出ることで,正しいスクランブル鍵を抽出することができず,映像/音声を正常に再生することができないという問題が存在した。すなわち,審決が認定するとおり,従来のデジタル放送受信装置にサイマルクリプト方式に対応していない受信装置が多く存在するという問題があったが,このような事態に対処することが甲1文献等に記載ないし示唆されているとはいえない。)。
また,本件特許発明1の課題は,甲1文献においては想定していないものであり,実験等を通じて初めて着想し得る課題であるといえるから,本件優先日当時において,自明な課題又は容易に着想し得る課題であったともいえない。
そうすると,その他,引用文献において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を想到する動機付けとなる記載や示唆があるとは認められないから,この点においても,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは,当業者が容易に想到し得たものということはできない。また,前記のとおり,限定受信方式記述子の記述子タグを限定受信方式記述子本来の記述子タグ以外のものに変更することが,本件優先日当時において周知技術であったとはいえないから,甲1A発明において,相違点1に係る本件特許発明1の構成を採用することは当業者が容易に想到し得たものということはできない。 以上によれば,本件特許発明1は当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできないから,特許法29条2項の規定に該当しない,とした審決の相違点1の判断に誤りはない。 」
(知財高裁1部設楽裁判長)
(2016.5.12. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-05-12 20:09
| 特許裁判例
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