2016年 07月 01日
著作 平成26年(ネ)10059号 接触角計算プログラム事件 |
◆プログラムの開発等に携わっていた元従業員が退社後に新会社で同様のプログラムを作成販売していた件で、著作権侵害等が問題となった事件。複製権・翻案権侵害。
【コンピュータプログラムの保護、著作権、不正競争防止法、営業秘密、ソースコード、依拠性、同一性、86%が一致、著作物性、作成者の個性発揮、他の表現の選択余地、元従業員、退社起業、ソフトウェア】
(複製又は翻案の成否 )
- 規範 -
「 (ア) 複製とは,印刷,写真,複写,録音,録画その他の方法により有形的に再製することをいい(著作権法2条1項15号),著作権法は,思想又は感情の創作的な表現を保護するものであるから(同項1号),著作物の複製とは,既存の著作物に依拠し,その創作的な表現部分の同一性を維持し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものを作成する行為をいうと解される。また,著作物の翻案(同法27条)とは,既存の著作物に依拠し,かつ,その表現上の本質的な特徴の同一性を維持しつつ,具体的表現に修正,増減,変更等を加えて,新たに思想又は感情を創作的に表現することにより,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる別の著作物を創作する行為をいう(最高裁平成11年(受)第922号同13年6月28日第一小法廷判決・民集55巻4号837頁)。
したがって,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,創作的な表現部分において同一性を有し,これに接する者が既存の著作物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできる場合には,複製又は翻案に該当する。他方,既存の著作物に依拠して創作された著作物が,思想,感情若しくはアイデア,事実若しくは事件など表現それ自体でない部分又は表現上の創作性がない部分において,既存の著作物と同一性を有するにすぎない場合には,複製にも翻案にも当たらないというべきである。」
- あてはめ -
「(イ) 依拠性
前記前提事実記載のとおり,原告接触角計算(液滴法)プログラムをその構成として含む原告プログラムは,被控訴人の従業員であった控訴人Xが,主に担当して作成されたものであるから,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムを作成した控訴人Xにおいて,原告接触角計算(液滴法)プログラムの存在及びその表現内容を認識していたことは明らかである。
そして,控訴人Xが,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムをその構成として含む被告旧バージョンを作成するに際し,原告プログラムを参考にしたことを自認していることに加え,前記ア認定の原告接触角計算(液滴法)プログラムと被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの同一性に照らせば,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角(計算)液滴法プログラムに依拠して作成されたものであると認められる。
(ウ) 創作的な表現の同一性
a プログラムは,その性質上,表現する記号が制約され,言語体系が厳格であり,また,電子計算機を少しでも経済的,効率的に機能させようとすると,指令の組合せの選択が限定されるため,プログラムにおける具体的記述が相互に類似することが少なくない。著作権法は,プログラムの具体的表現を保護するものであって,機能やアイデアを保護するものではないところ,プログラムの具体的記述が,表現上制約があるために誰が作成してもほぼ同一になるもの,ごく短いもの又はありふれたものである場合においては,作成者の個性が発揮されていないものとして,創作性がないというべきである。他方,指令の表現,指令の組合せ,指令の順序からなるプログラム全体に,他の表現を選択することができる余地があり,作成者の何らかの個性が表現された場合においては,創作性が認められるべきである。
b 原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分と被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分は,①前記ア(ウ)aのとおり,そのプログラム構造の大部分が同一であること,②前記ア(ウ)b⒜のとおり,ほぼ同様の機能を有するものとして1対1に対応する番号(1)ないし(16)の各プログラム内のブロック構造において,機能的にも順番的にもほぼ1対1の対応関係が見られること,③前記ア(ウ)b⒝及びcのとおり,これらの構造に基づくソースコードは,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムの約86%において一致又は酷似している上に,その記載順序及び組合せ等の点においても,同一又は類似しているということができる。なお,前記ア(ウ)a⒝のとおり,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには,原告接触角計算(液滴法)プログラムにあるプログラムを備えていないものがあるが,これは,液滴の接触角計測に必須のプログラムではない。また,前記ア(ウ)a⒝のとおり,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムには,原告接触角計算(液滴法)プログラムにないプログラムが追加されているものがあるが,これは,既に存在するプログラム内に予め組み込まれているプログラムを,分離して,別プログラムとして記述したものにすぎない。
そして,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムと同一性を有する原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分に係るソースコードの記載は,これを全体として見たとき,前記ア(エ)のとおり,指令の表現,指令の組合せ,指令の順序などの点において他の表現を選択することができる余地が十分にあり,かつ,それがありふれた表現であるということはできないから,作成者の個性が表れており,創作的な表現であるということができる。
c したがって,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角計算(液滴法)プログラムのうち本件対象部分と創作的な表現部分において同一性を有し,これに接する者が本件対象部分の表現上の本質的な特徴を直接感得することができるということができる。
…略…
エ 小括
以上によれば,被告旧接触角計算(液滴法)プログラムは,原告接触角計算(液滴法)プログラムの本件対象部分を複製又は翻案したものであるということができる。 」
ニック あすみ技研
(知財高裁4部高部裁判長)
◆Memo:
・どのような場合にプログラムが(アイディア自体ではなく)著作権法上の保護対象となるか。
(2016.7.1. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-07-01 19:46
| 著作権法
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