2016年 08月 10日
特許 平成26年(行ケ)10166号 図書保管管理装置事件 |
◆無効審判/侵害訴訟の控訴審(知財高裁)においても本件発明の進歩性が否定された事件。
【特§104の3、進歩性、無効審判、周知の課題、内在する課題、当然の発意、取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)】
(進歩性)
「…原告は,甲4に示された課題の内容に照らせば,甲4からは,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題を着想し得ない旨主張する。
この点,確かに,甲4には,従来の図書の入出庫管理システムでは,図書とケースとが固定した対応関係にあったため,図書の返却時に当該図書に対応したケースを探し出さねばならず,作業の効率が悪くなるという問題等があったことに鑑み,図書とケースとの対応関係を固定的なものとせず,ケースに付された識別情報と図書に付された識別情報との組み合わせで新たな図書情報を生成して入出庫管理を行なうようにすることにより,入庫すべき図書を任意のケースに収容して書庫に入庫することができ,貸し出し及び返却時の作業を容易化することができるものとした発明であることが記載されており(段落【0006】ないし【0011】),これからすると,甲4において解決しようとする直接の課題が,図書館員のカウンターステーションにおける図書の返却作業の容易化に係るものであることは,原告主張のとおりといえる。しかしながら,書棚や倉庫の分野において,出納効率と収容効率の双方を向上させることが周知の課題であることは,本件第1次判決が判示するとおりであり( ),また,甲4にも,図書の貸出し及び返却時における書棚からのコンテナの取出し及び返却を,統括制御盤の制御に基づき,スタッカークレーン等を用いて自動的に行うシステムが記載されていること…からすれば,甲4においても,図書が返却されたコンテナの書棚への返却効率の向上に係る課題は内在するものというべきである。
そして,甲4発明に甲5積層棚及び周知技術2を適用することにより,相違点3に係る本件発明1の構成(書庫の複数の棚領域には,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に2個のコンテナが収容され,前記搬送手段には,前記コンテナを取り出す間口に対して,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出す移載手段が備えられている構成)とすることが当業者において容易に想到し得たことは,本件第1次判決が判示するとおりであるところ ,このような構成を前提とすれば,書庫の棚領域に,搬送手段によってコンテナを取り出す間口に対して,奥行き方向に1個のコンテナのみを収容する構成に比べ,奥側のコンテナを使用しこれを取り出す際に,手前側のコンテナを取り出してから奥側のコンテナを取り出すという手順が付加されることになって,出納効率が低下することは自明であるから,当業者であれば,上記構成を採用するに当たり,出納効率と収容効率の双方を向上させるという書棚や倉庫の分野における周知の課題及び甲4に内在する上記課題を踏まえ,上記構成から生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとすることは,当然の発意ということができる。
さらに,上記のような発意に基づき,相違点3に係る本件発明1の構成の下で,そこから生じる出納効率の低下をできるだけ軽減させようとするのであれば,手前側のコンテナと奥側のコンテナの双方に空きがある場合に,取出しの手順がより簡易な手前側のコンテナを優先的に取り出すようにすること,すなわち相違点4に係る本件発明1の構成とすることは,当業者が通常行い得ることであって,必ずしもこのような構成を示す技術文献等の記載によらなくとも認定し得る技術常識であるということができる。 」
(取消判決の拘束力)
「…しかるところ,本件第1次判決における上記相違点3に係る容易想到性の判断は,本件第1次審決を取り消すものとした判決主文が導き出されるのに必要な事実認定又は法律判断にわたるものであるから,取消判決の拘束力(行政事件訴訟法33条1項)により,本件審決を行う審判官は,上記判断に抵触する判断をすることは許されないものというべきである。」
日本ファイリング、岡村製作所
(知財高裁3部鶴岡裁判長、平成28年6月23日)
(2016.8.10. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-08-10 19:21
| 特許裁判例
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