2016年 08月 30日
特許 平成27年(行ケ)10245号 便座付き便器事件 |
◆「昇降装置」を削除した補正が新規事項追加に当たるか?サポート要件は充足するか?が争点となった事件。新規事項追加、サポート要件違反。
【補正、新規事項追加、上位概念化、明細書開示の構成要素の削除、自明、記載されているに等しい、一義的】
(新規事項追加)
「 本件補正のうち,便座昇降部を除くとした補正事項は,当初明細書等の請求項1に記載された「便座と便器との間隙」が,便座昇降部により形成されるものには限定されないとするものであるから,便座昇降部以外の手段で間隙が形成されても,又は当初から間隙が形成されていてもよいことになる。このように,本件補正は,当初明細書等の請求項1の発明特定事項を削除し,発明を上位概念化したものである。…略…
(2) 検討
当初明細書等の記載には,前記1(1)のとおり,便器と便座との間隙を形成する手段としては便座昇降装置が記載されているが,他の手段は,何の記載も示唆もない。
すなわち,補正前発明は,便器と便座との間隙を形成する手段として,便座昇降装置のみをその技術的要素として特定するものである。
そうすると,便座と便器との間に間隙を設けるための手段として便座昇降装置以外の手段を導入することは,新たな技術的事項を追加することにほかならず,しかも,上記のとおり,その手段は当初明細書等には記載されていないのであるから,本件補正は,新規事項を追加するものと認められる。
(3) 被告の主張について
① 被告は,当初明細書等に接した当業者にとって,便器と便座との間に拭き取りアームを移動させるための間隙さえ形成されていればよく,その手段が当初明細書等に例示されたもの限られないということは,自明の事項であると主張する。
しかしながら,便器と便座との間の間隙を形成する手段が自明な事項というには,その手段が明細書に記載されているに等しいと認められるものでなければならず,単に,他にも手段があり得るという程度では足りない。上記のとおり,当初明細書等には,便座昇降装置以外の手段については何らの記載も示唆もないのであり,他の手段が,当業者であれば一義的に導けるほど明らかであるとする根拠も見当たらない。
② また,被告は,公開特許公報には,便座昇降装置以外の手段で便器と便座との間に間隙を設ける技術が開示されているから,当初明細書等に便座昇降装置以外の手段で便器と便座との間に間隙を設けることは,当初明細書等に実質的に記載されていると主張する。
しかしながら,上記の自明な事項の解釈からいって,他に公知技術があるからといって当該公知技術が明細書に実質的に記載されていることになるものでないことは,明らかである。のみならず,上記公報に記載された技術は,容器6と座部3との間に介護者が手を入れられる隙間を設けることを開示しているだけであり,便器と便座との間に機械的な拭き取りアームが通過する間隙を設けることとは,全く技術的意義を異にしている。
③ 被告の上記各主張は,いずれも採用することはできない。
(4) 小括
以上のとおりであるから,本件補正が,新規事項の追加にあたらないとした審決の判断には,誤りがある。」
岡田製作所
(知財高裁2部清水裁判長)
(2016.8.30. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-08-30 19:16
| 特許裁判例
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