2016年 08月 31日
特許 平成27年(行ケ)10213号 ガスタービンエンジンアセンブリ事件 |
◆ガスタービンエンジンの発明に関し、審決取消訴訟でも進歩性無しと判断された事件。
【当業者による適宜設定(選択)、設計的事項、歯車比の限定、格別な技術的意義、動機付け、阻害要因】
「エ 以上のとおり,引用発明が奏する効果は,いずれも,第2のタービン手段20とファンアセンブリ72との間にギアアセンブリ62を設けた結果,第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べてファンアセンブリ72の回転数が低減されることそれ自体によるものであって,それ以上に,同回転数を何らかの具体的な値に特定することによるものではない。
そうすると,引用発明を具体化しようとする当業者は,第2のタービン手段20とファンアセンブリ72との間にギアアセンブリ62を設けることにより,第2のタービン手段20で直接駆動した場合に比べてファンアセンブリ72の回転数が低減されていれば,課題を解決でき,また,効果を奏すると理解する一方で,ファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20の回転数については,少なくとも引用発明による課題解決及び引用発明が奏する効果の観点からは,何らかの具体的な値に特定する必要はないと理解するものといえる。
したがって,当業者は,引用発明を具体化する際,使用するファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20の回転数を何らかの具体的な値に特定しなければならないとは考えず,それらを,ターボファンガスタービンのバイパス比や,ファンアセンブリ72のファンブレードの大きさなど,ターボファンガスタービンの効率に影響を及ぼす様々な観点に基づいて適宜選択(設計)するものと認められる。
そして,そのようにして選択(設計)されたファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20については,それぞれ自ずと最適な回転数が決まることになるが,それらの最適な回転数が具体的にどのような値になるとしても,それは,当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を適宜選択(設計)したことの単なる結果にすぎず,また,ギアアセンブリ62の歯車比も,前記アのとおり,選択(設計)されたファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20がそれぞれ最適な回転速度で回転するように,当業者が適切な値に設定できるものであるから,その具体的な値も,当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を適宜選択(設計)したことの単なる結果として得られるものにすぎないものである。
オ 他方,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)に,従来のそれにはない格別の技術的意義が認められるかという点を検討してみても,かかる歯車比は,甲3公報が示す2.5対1又は2.0対1(5頁左下欄2~11行目)や,乙2公報が示す2対1ないし13対1(段落【0009】)といった,ギア付きターボファンガスタービンの減速ギア装置に関する従来の歯車比からかけ離れた特異なものとは認められず,また,本願明細書には,「一実施形態においては,ファンアセンブリ12が低圧タービン20の回転速度の約2分の1の回転速度で回転するように,歯車箱100は約2.0対1の歯車比を有する。そのため,本実施形態においては,ファンアセンブリ12は,低圧タービン20の回転速度より常に遅い回転速度で回転する。」(段落【0013】)との記載があるものの,ファンが低圧タービンより低速で回転することは前記従来の歯車比を採用した場合も同様であるから,この記載を参酌しても,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)に,従来の歯車比にはない格別の技術的意義があるということはできない。そして,本願明細書において,ほかに歯車箱の歯車比を2.0対1と特定したことの技術的意義をうかがわせる記載は見当たらない。
カ 以上によれば,本願発明の歯車箱の歯車比(2.0対1)は,引用発明を具体化しようとする当業者がファンアセンブリ72及び第2のタービン手段20を適宜選択(設計)したことの単なる結果として得られるものにすぎないというべきである。
そうすると,引用発明のギアアセンブリ62の歯車比を2.0対1とすることは,当業者が容易になし得たことであり,その結果,ファンアセンブリ72の回転速度がブースタ圧縮機及び第2のタービン手段20の回転速度の2分の1となることも明らかである。
したがって,相違点3に係る本願発明の構成は,当業者が容易に想到し得るものというべきである。 」
ゼネラルエレクトロニック
(知財高裁3部鶴岡裁判長)
(2016.8.31. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-08-31 13:01
| 特許裁判例
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