2016年 09月 12日
特許 平成25年(ワ)3167号 広告印刷物特許侵害訴訟事件 |
◆ダイレクトメール等の印刷物の特許侵害訴訟で、新規性・進歩性欠如およびサポート要件違反と判断された事件(権利行使制限、特§104の3)。
【新規性、進歩性、サポート要件、無効理由、特許法104条の3、権利行使制限、訂正の再抗弁】
(サポート要件について)
「4 争点(3)コ(無効理由8)について
事案に鑑み,さらに,争点(3)コ(無効理由8)について判断する。
(1) 特許制度は,明細書に開示された発明を特許として保護するものであり,明細書に開示されていない発明までも特許として保護することは特許制度の趣旨に反することから,特許法36条6項1号のいわゆるサポート要件が定められたものである。
したがって,同号の要件については,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明の欄の記載によって十分に裏付けられ,開示されていることが求められるものであり,同要件に適合するものであるかどうかは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が発明の詳細な説明に記載された発明であるか,すなわち,発明の詳細な説明の記載と当業者の出願時の技術常識に照らし,当該発明における課題とその解決手段その他当業者が当該発明を理解するために必要な技術的事項が発明の詳細な説明に記載されているか否かを検討して判断すべきものと解される。
(2) これを本件についてみると,原告の主張によれば,本件発明の構成要件C及びDの「上部,下部,左(右)側部」とは「上部,下部又は左(右)側部」を意味するのであり,左右側面部の裏面において一過性の粘着剤が塗布される位置を,当該分離して使用するものの上部,下部又は左(右)側部の内側のいずれか及び上部,下部又は左(右)側部の外側に該当する部分のいずれかであればよいというのである。
これに対し,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄には,一過性の粘着剤を塗布する部分の具体例として,分離して使用するもの4と中央面部1の上部境界,下部境界,左側部(右側部)境界の各境界の内側近傍と外側近傍に接着剤を塗布したものしか記載されていない。そのため,特許請求の範囲に記載された発明は,発明の詳細な説明及び図面に記載されたものより広い。
しかるに,このように,本件明細書等の発明の詳細な説明の欄を超えて,一過性の粘着剤が塗布される位置を原告の上記主張のとおりでよいとすると,このうちどの部分に粘着剤を塗布すれば「葉書,チケット,クーポン券等の分離して使用するものを広告等の印刷物より切り取る必要がなく,かつその周囲に切り込みが入っているにもかかわらず,広告等の印刷物に付いていて紛失させることなく,しかも手間がかからず葉書,チケット,クーポン券等の分離して使用するものを利用することが出来る印刷物を提供すること」(本件明細書等の段落【0006】)という本件発明の課題を解決することができ,また「印刷物に付いている葉書,チケット,クーポン券等を切り取ろうとする意思を持たずに,印刷物を開くと自動的に手にすることになる。」(同段落【0012】)の作用効果を奏することになるのか,必ずしも明らかとはいえない(乙B11及び乙B12も参照)。
したがって,当業者において,本件発明の課題解決手段や,発明を理解するための技術的事項が,発明の詳細な説明に記載されているものとはいい難い。
(3) 以上によれば,本件発明は特許法36条6項1号に規定するサポート要件を充たしていないから,本件特許は同法123条1項4号により特許無効審判により無効にされるべきものである。 」
ウィルコーポレーション、大日本印刷
(東京地裁40部東海林裁判長)
◆Memo:
・課題解決手段のクレームへの反映。
(2016.9.12. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-09-12 20:36
| 特許裁判例
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