2016年 09月 20日
特許 平成27年(行ケ)10187号 縫合針処理方法事件(拒絶審決取消訴訟) |
◆縫合針の処理方法の発明の進歩性が問題となった事件。進歩性無し。
【進歩性、特許法29条、課題の共通性、動機付け、阻害要因】
「 (2) 引用発明と刊2事項の組合せについて
ア 乙10には,湾曲した外科用針について(第1図),「針の重要な機械的特質は延性,鋭利性及び曲げ強度である。・・・曲げ強度は針が使用中の曲げに耐えられるために重要なものである。・・・本発明は或種の高強度合金が,発明者の知る限りどんな他の外科用針よりも強力である外科用針として加工するのに使用できるという発見に基づいたものである。」と記載されており(1頁右下欄19行-2頁左上欄9行),前記2(1)の刊行物1の記載及び前記3(1)の刊行物2の記載を併せ考慮すると,屈曲した外科用縫合針において使用中の塑性変形を防止するために曲げ剛
性(曲げ強度)を高めることは,屈曲した外科用縫合針一般に求められる課題であり,刊行物1及び刊行物2に共通する課題であることが認められ,また,曲げ剛性(曲げ強度)の向上に適した材料を選択することは,当業者が上記課題を解決するために通常行うことであると認められる。
イ そして,乙11には,腹腔鏡下手術に用いられる縫合針が有している円弧状に湾曲した針本体2について,「構成材料としては,例えば,ステンレス鋼,チタン,ニッケル,タングステンおよびこれらの合金のような従来より針に用いられている種々の金属材料が挙げられる。」と記載されており(【0022】,【0024】),前記3(1)の刊行物2の記載を併せ考慮すると,タングステン合金は,ステンレス鋼とともに従来から屈曲した外科用縫合針に用いられている金属材料であることが認められる。
ウ そうすると,屈曲した外科用縫合針の曲げ剛性(曲げ強度)を高めるという課題を解決するために,当業者が,引用発明において,その外科用縫合針の材料である「ステンレス鋼」に代えて,「ASTM 45500合金ステンレス鋼から製造された市販のステンレス鋼針」よりも「曲げ強度が改良される」と記載されている刊2事項の「タングステンレニウム合金」を選択することは,当業者における通常の創作活動の範囲内のものであると認められる。…略…
刊2事項の「タングステンレニウム合金」は,「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」ものであるところ,本件証拠上,甲7のほかに刊2事項の「タングステンレニウム合金」に上記課題があったことを示す証拠は見当たらないし,所望の半径よりも小さい半径に過剰に屈曲させた後,所望の半径に実質的に逆屈曲させるという引用発明の加工方法が,刊2事項の「所望の半径を有する屈曲形態に形成する」ことと質的に相違するものであることを示す証拠も見当たらないことからすれば,本願優先日当時の当業者は,刊2事項の「タングステンレニウム合金」は屈曲した外科用縫合針の加工の際に求められる十分な延性を有していると認識するものといえ,これを引用発明の「ステンレス鋼」に代えて適用することに阻害要因があるものということはできない。
オ 以上によれば,本願発明は,当業者が引用発明及び刊2事項に基づいて容易に想到し得たものであると認められる。 」
(知財高裁2部清水裁判長)
(2016.9.20. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-09-20 13:04
| 特許裁判例
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