2016年 10月 14日
特許 平成28年(ネ)10056号 スパッタリングターゲット事件(控訴審) |
◆被告製品のスパッタリングターゲットが本件特許の組成を有しているか否かが争点なった事件。技術的範囲に属さず(控訴審)。
【組成、クレーム、球、円、直径、SEM、3次元、2次元、w%、重量パーセント、特許法70条、統計的推定】
(「直径」の定義不明)
「…しかし,そもそも,本件明細書をみても「直径」の定義はなく,相(B)が真円でない場合に「直径」をどのように定義するかは定かでなく,当業者において,これを一義的に理解することができない。
そして,断面形状において測定する場合であっても(本件明細書【0026】),断面形状における直径と立体形状における直径との関係等が明らかでないため,いかなる測定値を「直径」とするかは一義的に明らかであるとはいい難い(なお,乙27による長径及び短径並びに直径の定義自体,あり得る解釈の一つにすぎず,本件明細書に接した当業者が,乙27のとおりに一義的に解するのが技術常識であるとは認め難い。)。したがって,構成要件B-(1)について,いかなる場合に「直径」が「30~150μm」であるのかは,不明といわざるを得ない。
また,控訴人は,断面における直径が30μmを超える「球形の相(b)」の立体形状の直径は,「30~150μmの範囲にある」と推認することは可能であると主張するが,上記のとおり「直径」の定義自体が一義的に確定できないし,控訴人の議論は真球では成立するとしても,扁球(回転楕円体)や疑似扁球においても妥当するものか疑問であって,採用し難い。
(イ) これに対し,控訴人は,「直径」とは,「円,楕円,双曲線で,中心を通り両端がその曲線上にある線分。」(甲63〔大辞泉〕,64〔科学大辞典〕)であると主張する。
しかし,上記定義によっては,楕円や楕円体の場合,直径が複数存在することになり,長径を直径というのか,短径を直径というのか,あるいは,長径とも短径とも異なる直径の定義が存在するのか,一義的に理解することができない。… 」
( Coを90wt%以上含有するの充足性)
「(ア) 控訴人は,「Coを90wt%以上含有する」とは,球形の相(B)の中に「Co含有量が90wt%以上」の部分が少しでもあれば足りるという意味に解するのが相当であると主張する。
しかし,まず,本件明細書の【0023】の前段と後段が上位概念と下位概念の関係にあるとは解し難く,いずれも球形の相(B)におけるCo濃度を説明する記載であると解するのが相当であるから,控訴人の主張は前提を異にし,理由がない。
また,本件明細書の【0023】の後段の「中心付近内では」について,仮に,控訴人主張のとおり,EPMA分析のスポット径におけるCo濃度を前提として「中心付近においては」の意味に解釈すべきであるとしても,球形の相(B)の中にCo含有量が90wt%以上の部分が少しでもあれば足りることを意味するとは直ちにいえない。
さらに,控訴人の解釈によれば,直径30~150μmの球形の相の内部に,直径数μmのCo90wt%以上の領域があれば,それを全て相(B)とすることになるが,球形の相(B)内の大部分の領域についてCoが90wt%以下であっても,漏洩磁束の向上という効果が得られるなどということは,本件明細書には何ら記載されていないし,本件特許発明の効果は,相(B)中のCo濃度が金属素地(A)よりも有意に高い場合に初めて得られ,本件明細書はその下限値が90wt%であると解するのが合理的であって,極めて狭い領域でも90wt%以上の部分があれば足りると解するのは疑問である。
加えて,被控訴人は,前訴における本件特許の無効主張において,点分析のみに基づいて,Co濃度90wt%以上と主張してはいないのであるから,控訴人の解釈が被控訴人の無効主張における解釈と整合するということはできない。
したがって,控訴人主張のクレーム解釈は採用できない。
(イ) 控訴人は,「球形の相(B)」全体として「Co含有量が90wt%以上」
であることが必要と解することはできないと主張する。
しかし,前記(ア)のとおり,一部分でも90wt%以上の領域があれば構成要件を充足すると解するとすれば,極めて狭い領域のみで本件特許発明の効果を奏することになり,疑問である。他方,被控訴人は,全領域で90wt%以上であることを要すると主張するが,本件特許発明の効果を奏するために全領域について90wt%以上であることは要しないと考えられ,球形の相(B)全体として,すなわち,球形の相(B)内のCo含有量が90wt%以上であればよい(平均でCo含有量が90wt%以上であればよい。)と解するのが,自然な解釈というべきである。…
その他,甲62の1・2,67,84,89ないし91を考慮しても,被控訴人製品1が「Coを90wt%以上含有する」とは認め難い。 」
(統計的推定)
「(4) 統計的推定について
控訴人は,統計的推定を行えば,被控訴人製品1が構成要件を充足する旨合理的に推認できると主張する。
しかし,本件明細書に接した当業者が,統計的推定を行うことによって,本件特許発明の構成要件充足性を判断するものと一義的に理解するとはいい難い。また,統計的推定によって訴訟法上の証明がされたといえるか疑問であるし,仮に統計的推定を用いるとしても,その基礎となる標本値の選定が無作為抽出によってされていないこと,母集団の分布が正規分布であるか不明であるといわざるを得ないことからすれば,統計的推定が適正に行われているとはいい難い。
したがって,控訴人の上記主張は理由がない。 」
JX金属、田中貴金属工業
(知財高裁4部高部裁判長)
◆Memo:
・円・球の径の定義。
・どの範囲でクレーム記載の数値限定であればよいか? 一部/全体/平均?、作用効果との関係。
(2016.10.14. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-10-14 18:45
| 特許裁判例
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