2016年 10月 17日
特許 平成27年(行ケ)10212号 鋳型の製造方法無効審判審決取消訴訟 |
◆引用発明の認定が問題となった事件。化学系の発明に関し、明細書に記載された”選択肢”の組合せは、当然に、全てが開示されているものと捉えてよいか?or実施例の開示内容を考慮するか?
【進歩性、一致点相違点、選択肢、組合せ、複数の候補、列挙、実施例、フラッタリーけい砂、アルカリレゾール樹脂】
「 (3) 原告の主張について
原告は,甲1の記載から次の甲1A発明が認められると主張する(下線部は,甲1発明との実質的な差異)。
「 予め加熱した耐火骨材にアルカリレゾール樹脂溶液を混合して,耐火骨材の表面をアルカリレゾール樹脂溶液にて被覆すると共に,アルカリレゾール樹脂溶液の溶剤を耐火骨材の熱で蒸散せしめることにより,常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを製造し,次いでレジンコーテッドサンドを,加熱された,目的とする鋳型を与える型内に充填した後,水蒸気を通気させて,型内でレジンコーテッドサンドを硬化せしめ,更に鋳型を乾燥機に入れて乾燥することにより,目的とする鋳型を得る,鋳型の製造方法。」
ところで,発明とは,自然法則を利用した技術思想の創作であり,自然法則上の制約からも,また,発明者の創作意図としても,一まとまりの技術事項として構成されるものであるから,明細書などの同一の文献の中に,発明の各構成要素が複数の候補から選択できるものとして記載されているような場合であっても,その選択肢の組合せの全ての類型が,当然に,当該文献に発明の構成として開示されているものと解することはできない。そして,引用文献である甲1には,上記(1)のとおり,あらかじめ加熱したフラッタリーけい砂を用い,また,さらさらしたレジンコーテッドサンドを得たとする実施例7~12が記載されているが,いずれも,アルカリレゾール樹脂を用いたものではない。したがって,甲1には,あらかじめ加熱したフラッタリーけい砂にアルカリレゾール樹脂のフェノール樹脂粘結剤を加えて常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを得た発明は,記載されていないというべきである。
原告は,【0024】~【0029】には,粒状でさらさらしたレジンコーテッドサンドを得ることができることや,そのようなレジンコーテッドサンドが好ましいとの記載があることから,アルカリレゾール樹脂を用いた乾態のレジンコーテッドサンドが開示されていると主張する。
しかしながら,【0024】~【0029】の記載は,耐火骨材にフェノール系樹脂粘結剤を被覆する方法として一般的に可能なものを列記しただけであって,この部分から,直ちに,甲1に記載のいかなるフェノール系樹脂粘結剤にどのような被覆方法を選択すべきかが判明するわけではなく,また,当然に,甲1に記載のどのフェノール系樹脂粘結剤にも全ての被覆方法が選択できるとの趣旨と理解できるものでもない。上記のとおり,具体的に乾態のレジンコーテッドサンドが得られたとする実施例中には,アルカリレゾール樹脂を用いたものが含まれていないのであるから,これを用いた乾態のレジンコーテッドサンドを得る具体的な手段が記載されていない以上,甲1から,当業者が,アルカリレゾール樹脂を用いて乾態のレジン コーテッドサンドを得る技術を読み取れるものではない(すなわち,当業者は,常温流動性を有する乾態のレジンコーテッドサンドを開示する甲1の請求項2係る発明には,アルカリレゾール樹脂を用いてレジンコーテッドサンドを得る技術は包含されていないと理解する。)。
そうすると,原告の上記主張は,採用することができない。
(4) 小括
以上のとおり,甲1から甲1A発明を認定することはできないので,甲1A発明に基いて,審決の一致点・相違点の認定及び相違点の判断の誤りをいう原告の主張は,前提を欠くものとして失当である。 」
旭有機材
(知財高裁2部清水裁判長)
(2016.10.17. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-10-17 20:27
| 特許裁判例
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