2016年 10月 26日
特許 平成27年(行ケ)10176号 薄膜電界効果型トランジスタ事件 |
◆薄膜電界効果型トランジスタの発明に関し、数値範囲の全範囲について実施可能要件を満たしているかが争点となった事件。満たさず。
【特許法36条4項1号、実施可能要件、出願時、技術常識、作成困難、意義のある数値限定、数値範囲、全範囲】
(実施可能要件)
「 2 取消事由3(無効理由5の判断の誤り)について
(1) 事案に鑑み,以下の無効理由5について,審決の判断誤りを主張する取消事由3から判断する。
無効理由5は,本件明細書の発明の詳細な説明に,活性層として用いることができる本件化合物のアモルファス薄膜の作製法についての実施例の記載がなく,具体的に説明されていないから,実施可能要件を満たさず,本件発明1,2及び4についての特許は,無効とすべきである,というものである。
(2) 本件明細書の記載
ア 本件発明1,2及び4には,アモルファス薄膜である本件化合物を活性層として用いることを特徴とする透明薄膜電界効果型トランジスタが含まれるが,ZnOの組成であるmは「m=1以上50未満の整数」とされているから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が,本件発明1,2及び4の実施可能要件を満たすためには,上記mの全範囲にわたってアモルファスの本件化合物薄膜が形成できるように記載されている必要がある。
イ 発明の詳細な説明の記載を参酌すると…略…
(カ) 以上によれば,本件出願日当時,パルスレーザー蒸着法により,アモルファスのInGaO3(ZnO)m(m=1~4)を形成することが可能であることは確認できるものの(甲3,4,6,7),mが5以上の場合は開示されておらず,mが5以上のZnOに近い組成ではアモルファス相は得られないとの指摘もされていた(甲3)から,当業者は,mが5以上の薄膜の作成は極めて困難と認識していたものと認められる。
エ そして,本件明細書には,かかる当業者の認識にもかかわらず,mが5以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜を作成する方法についての記載はない。
(3) したがって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,mが5以上50未満の整数である場合を含む本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成することができる程度に明確かつ十分に記載されたものであるということはできないから,実施可能要件を欠くものと認められる。
そうすると,その余の点について検討するまでもなく,取消事由3には,理由がある。
(4) これに対して,被告は,本件発明は,InGaO3(ZnO)m膜について電界効果トランジスタの活性層に適するという未知の属性を発見し,その属性はアモルファスでも奏されることを見出したものであり,mの値の数値限定にのみ意義のある発明ではないから,透明薄膜電界効果型トランジスタという物品の活性層を構成する材料についてmの値の全範囲にわたって物品を作製する実施例の記載が必要であるということにはならない,と主張する。
しかし,被告の主張するとおり,本件発明がmの値の数値限定にのみ意義があるのではないとしても,本件発明の請求項の記載には,mが5以上のアモルファス薄膜も含まれているから,かかるアモルファス薄膜を形成することができる程度の記載が,本件明細書に求められるというべきである。しかも,上記(2)のとおり,本件出願日当時には,mが5以上の組成ではアモルファス相は得ることが極めて困難であるという当業者の認識があったにもかかわらず,本件明細書にはmが5以上50未満であるアモルファスの本件化合物薄膜の作成方法についての記載がない以上,本件発明1,2及び4について,当業者が,アモルファスの本件化合物薄膜を形成することができる程度に,その作成方法が明確かつ十分に記載されたものであるということはできない。
被告の主張には,理由がない。」
半導体エネルギー研究所、国立研究開発法人科学技術振興機構、HOYA
(知財高裁2部清水判事)
(2016.10.26. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-10-26 18:35
| 特許裁判例
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