2016年 11月 11日
特許 平成25年(ワ)7478号 LED製造方法均等侵害事件 |
◆LEDの製造方法の特許で均等侵害が認められた事件。「第2の割り溝」を形成するのではなく、「線状の変質部」を設けてそれに沿ってウエハを割る方法は均等か? 均等成立。
【文言侵害、溝、凹んでない変質部、均等論、ボールスプライン、第1~第3要件、GaNチップ、LED、製法特許、損害賠償、102条、無効理由、新規性・進歩性、動機付け】
(第1要件)
「(3) 第1要件について
ア 特許発明における本質的部分とは,当該特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分であると解すべきである。
そして,上記本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載に基づいて,特許発明の課題及び解決手段とその効果を把握した上で,特許発明の特許請求の範囲の記載のうち,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が何であるかを確定することによって認定されるべきである。すなわち,特許発明の実質的価値は,その技術分野における従来技術と比較した貢献の程度に応じて定められることからすれば,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から認定されるべきである。
ただし,明細書に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分な場合には,明細書に記載されていない従来技術も参酌して,当該特許発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分が認定されるべきである。そのような場合には,特許発明の本質的部分は,特許請求の範囲及び明細書の記載のみから認定される場合に比べ,より特許請求の範囲の記載に近接したものとなり,均等が認められる範囲がより狭いものとなると解される。
また,第1要件の判断,すなわち対象製品等との相違部分が非本質的部分であるかどうかを判断する際には,上記のとおり確定される特許発明の本質的部分を対象製品等が共通に備えているかどうかを判断し,これを備えていると認められる場合には,相違部分は本質的部分ではないと判断すべきであり,対象製品等に,従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分以外で相違する部分があるとしても,そのことは第1要件の充足を否定する理由とはならないと解すべきである(知的財産高等裁判所平成28年3月25日(平成27年(ネ)第10014号)特別部判決参照)。 」
(当てはめ)
「イ 本件特許請求の範囲は前記第2,1(4)のとおりであり,本件明細書等の記載は前記1(1)のとおりであるところ,本件発明は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり(段落【0001】),ウェハーを切断する従来技術としては,一般に,刃先をダイヤモンドとするブレードの回転運動により,ウエハーを直接フルカットするか,または刃先巾よりも広い巾の溝を切り込んだ後(ハーフカット),外力によってウエハーを割る装置であるダイサー,又は,同じく先端をダイヤモンドとする針の往復直線運動によりウエハーに極めて細いスクライブライン(罫書線)を例えば碁盤目状に引いた後,外力によってウエハーを割る装置であるスクライバーが使用されていたところ(段落【0003】),サファイア基板は硬く,へき開性を有しないため,従来技術のスクライバーを用いる方法では切断するのが困難であり,ダイサーを用いる方法でもクラック等が発生しやすく,正確に切断できないという課題があったことから(段落【0005】),本件発明においては,ウエハーの半導体層から線幅W1の第一の割り溝をエッチングにより形成すること,サファイア基板側に第二の割り溝を形成すること,第二の割り溝について第一の割り溝の線と合致する位置とすること,第二の割り溝の線幅W2を第一の割り溝の線幅W1よりも狭くすること,それらの割り溝に沿ってウエハーを分離するという工程を採用することで(段落【0007】),クラック等の発生を防止するとともに,ウエハーをまっすぐに割ることが可能となるか,切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合でも,p-n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることがないので,一枚のウエハーから多数のチップを得ることができるという効果を奏するようにしたものである(段落【0006】,【0012】ないし【0017】)。
また,本件明細書等には,「第二の割り溝」を形成する方法について,手法は特に問わないとしており,エッチング,ダイシング,スクライブ等の手法を用いることが可能であるとされ,このうち,線幅を狭くすることが可能であるなどの理由から,スクライブが特に好ましいとするにとどまっており(段落【0009】),「第二の割り溝」に関して,その形成の方法は特に限定されていない。
そして,本件においては,本件明細書等に従来技術が解決できなかった課題として記載されているところが,出願時の従来技術に照らして客観的に見て不十分であるという事情は認められない。
以上のような,本件特許の特許請求の範囲及び明細書の記載,特に明細書記載の従来技術との比較から導かれる本件発明の課題,解決方法,その効果に照らすと,本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分は,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層側にエッチングにより第一の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成し,サファイア基板側にも何らかの方法により第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くした点にあると認めるのが相当であり,サファイア基板側に形成される第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分が,空洞として溝になっているかどうか,また,線状の部分の形成方法としていかなる方法を採用するかは上記特徴的部分に当たらないというべきである。
ウ 被告方法は,前記2で認定したように,サファイア基板上に窒化ガリウム系化合物半導体が積層されたウエハーをチップ状に切断するに当たり,半導体層側にエッチングにより切断に資する線状の部分を形成し,サファイア基板側にもLMA法のレーザースクライブによって切断に資する線状の変質部を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基板側の線幅を狭くしているのである。
そして,前記2(1)イで説示したとおり,LMA法でサファイア基板を加工した場合,溶融領域が発生し急激な冷却で多結晶化し,この多結晶領域は多数のブロックに分かれるが,加工領域中央に実質の幅が極端に狭い境界が発生し,この表面に垂直な境界線の先端に応力集中するので割れやすくなることが認められる。
そうすると,被告方法は本件発明の従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分を共通に備えているものと認められる。 したがって,本件発明と被告方法との相違部分は本質的部分ではないというべきである。 …略…」
(第2要件)
「(4) 第2要件について
ア 前記(3)で検討したところによれば,本件発明は,半導体層側にエッチングにより第一の割り溝を形成し,サファイア基盤側にも第二の割り溝,すなわち,切断に資する線状の部分を形成するとともに,それらの位置関係を一致させ,サファイア基盤側の線幅を狭くすることで,切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合でも,p-n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることがないなどといった作用効果を奏するものと認められる。
イ これに対し,被告方法は,本件発明の第二の割り溝を,LMA法のレーザースクライブにより形成された線状の変質部に置換したにすぎず,前記2(1)イで説示したとおり,線状の変質部の存在が切断に資することに変わりなく,また,第一の割り溝と位置関係が一致し,第一の割り溝の線幅より狭いという構成によって,切断線が斜めとなってウエハーが切断された場合でも,p-n接合界面まで切断面が入らずチップ不良が出ることがないという作用効果を奏するものと認められ,本件発明と同一の作用効果を奏するものである。
ウ この点に関して被告らは,被告方法について,LMA法のレーザースクライブを用いると本件発明の課題が生じないと主張するが,上記(3)で説示したとおり,当該主張は採用することができない。
エ したがって,被告方法は,均等の第2要件を充足すると認められる。」
(第3要件)
「(5) 第3要件について
ア 前記(3)で判示したとおり,本件発明においては,第二の割り溝の形成方法は特に限定されていないものの,スクライブが好ましいとされていた。
これに対し,証拠(甲19,20,乙14)によれば,LMA法のレーザースクライブは,従来技術であるダイヤモンドの針を使用して溝を形成する物理的なスクライブや,レーザーを使用して溝を形成するアブレーション法のレーザースクライブに対する新たな技術として開発された技術であると認められる。
このように,本件発明における第二の割り溝の形成方法として,溝を形成する従来のスクライブが好ましい方法として記載されており,LMA法のレーザースクライブが,従来技術である溝を形成するスクライブの置換技術である以上,スクライブ等の方法による第二の割り溝の形成を,LMA法のレーザースクライブによる線状の変質部の形成に置換することは容易であったと認められる。 …略… 」
(第4/第5要件および結論)
「(6) 第4要件及び第5要件について
均等の法理の適用が除外されるべき場合である第4要件及び第5要件については,対象製品等について均等の法理の適用を否定する者が主張立証責任を負うと解するのが相当であるところ,本件において,被告らは,第4要件及び第5要件について何ら主張していない。
したがって,被告方法は第4要件及び第5要件を充足すると認められる。
(7) 以上のとおり,被告方法の「線状の変質部」は,構成要件C及びDの「第二の割り溝」と均等なものとして,その技術的範囲に属する。 」
日亜、E&E、立花エレック
(東京地裁40部東海林裁判長)
(2016.11.11. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-11-11 20:20
| 特許裁判例
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