2016年 11月 17日
特許 平成28年(行ケ)10079号 タイヤ審決取消訴訟事件事件 |
◆引用発明と本願発明との具体的課題が異なっており技術的思想が相反するため、容易想到性が否定された事件(進歩性肯定)。
【進歩性、容易想到性、具体的な課題、課題の示唆なしに所定の数値範囲に想到することが容易であったか、技術常識】
「(2) 相違点1の容易想到性について
ア 本願発明は,トレッドに発泡ゴムを適用したタイヤにおいて,氷路面におけるタイヤの制動性能及び駆動性能を総合した氷上性能が,タイヤの使用開始時から安定して優れたタイヤを提供するため,タイヤの新品時に接地面近傍を形成するトレッド表面のゴムの弾性率を好適に規定して,十分な接地面積を確保することができるようにしたものである。これに対し,引用発明は,スタッドレスタイヤやレーシングタイヤ等において,加硫直後のタイヤに付着したベントスピューと離型剤の皮膜を除去する皮むき走行の走行距離を従来より短くし,速やかにトレッド表面において所定の性能を発揮することができるようにしたものである。 以上のとおり,本願発明は,使用初期においても,タイヤの氷上性能を発揮できるように,弾性率の低い表面ゴム層を配置するのに対し,引用発明は,容易に皮むきを行って表面層を除去することによって,速やかに本体層が所定の性能を発揮することができるようにしたものである。したがって,使用初期においても性能を発揮できるようにするための具体的な課題が異なり,表面層に関する技術的思想は相反するものであると認められる。
イ よって,引用例1に接した当業者は,表面外皮層Bを柔らかくして表面外皮層を早期に除去することを想到することができても,本願発明の具体的な課題を示唆されることはなく,当該表面外皮層に使用初期においても安定して優れた氷上性能を得るよう,表面ゴム層及び内部ゴム層のゴム弾性率の比率に着目し,当該比率を所定の数値範囲とすることを想到するものとは認め難い。また,ゴムの耐摩耗性がゴムの硬度に比例すること(甲8~13)や,スタッドレスタイヤにおいてトレッドの接地面を発泡ゴムにより形成することにより氷上性能あるいは雪上性能が向上すること(甲14~16)が技術常識であるとしても,表面ゴム層を非発泡ゴム,内部ゴム層を発泡ゴムとしつつ,表面ゴム層のゴム弾性率を内部ゴム層のゴム弾性率より小さい(表面を内部に比べて柔らかくする。)所定比の範囲として,タイヤの使用初期にトレッドの接地面積を十分に確保して,使用初期においても安定して優れた氷上性能を得るという技術的思想は開示されてないから,本願発明に係る構成を容易に想到することができるとはいえない。」
ブリジストン
(知財高裁4部高部判事)
(2016.11.17. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-11-17 12:25
| 特許裁判例
|
Comments(0)