2016年 11月 28日
特許 平成28年(行ケ)10009号 加湿器審決取消訴訟事件(その2) |
◆加湿器の発明に関し進歩性が問題となった事件。動機付け無し、阻害要因の存在→進歩性肯定(無効審決取消)。
【進歩性、容易想到性、特許法29条2項、動機付け、動作停止↔動作継続、すでにあるものを変更する動機付け、置換すると作用効果を奏しなくなる、阻害要因】
「…引用例2には,加湿器において,給水部の水位を検知する検知装置からの信号により,表示部に対し,給水部の水位が一定の水位よりも低くなると,あらかじめ定めた第1表示内容を表示し,モーターが所定時間以上回転した後,モーターを停止し,あらかじめ定めた第2表示内容を表示させるという技術事項が記載されているものと認められる。
イ 相違点1の容易想到性
(ア) 引用発明における「第1の基準位置H1で検知する水位」とは,前記(1)ウ(イ)のとおり,液体収容部における液量不足の判断基準となる液面高さ(水位)であり,加湿部が適正に加湿空気を生成するために必要な液面高さの下限位置(水位)であって,液面高さ(水位)がそれより低くなったことが検出されると加湿部の動作が停止されるものである。
(イ) 引用例2における「一定の水位」の意義
引用例2には…略…
引用例2における「一定の水位」は,それを下回る水位でも加湿機能が適正に動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出された後も加湿機能の動作を行わせることを前提とするものであるということができる。
(ウ) 以上によれば,引用例2に記載された技術事項における,給水部の水位を検知する検知装置が検知する「一定の水位」は,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」とは,水位の性質,すなわち,それを下回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという点において,明らかに相違する。
加えて,引用発明において,液面検出手段を構成するフロートスイッチ14は,「第1の基準位置H1における接点」のみならず,「第2の基準位置H2における接点」を有するところ,「第2の基準位置H2における接点」が検出する液面高さの「第2の基準位置」は,加湿機の運転時の場合には,水面高さ(液面高さ)が第1の基準位置H1以上の場合には運転が継続される,すなわち,液面高さが「第2の基準位置」を下回っても,第1の基準位置を上回る限りにおいて,加湿機の運転が継続されるものである(【0028】)。そうすると,所定の水位を下回る液面高さでも加湿機能が動作して加湿空気を生成することができ,それを下回る水位が検出された後も加湿機能の動作を行わせるものである点において,引用例2における「一定の水位」と引用発明の「第2の基準位置H2における接点」は共通するものであるということができる。
このように,引用例2の「一定の水位」は,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」とは水位の性質(それを下回る水位でも加湿機能が適正に動作できるか否か及び加湿機能の動作を行わせることを前提としているか否かという点)において明らかに相違し,かつ,引用発明には,上記性質において共通する「第2の基準置H2における接点」が既に構成として備わっているにもかかわらず,引用発明において,フロートスイッチ14の「第1の基準位置における接点」を引用例2の「一定の水位」を検知する構成に置き換える動機付けがあるということはできない。
(エ) さらに,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」を,引用例2に記載された技術事項(それを下回る水位が検出された後も加湿機能の動作を行われせることを前提した「一定の水位」を検出対象とするもの)に置き換えると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」は,液面高さが「第1の基準位置」を下回ったことを検出しても加湿機能を引き続き動作させることになるから,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」に係る構成により奏するとされる,加湿部の動作を自動的に停止して液体収容槽の液体の残量がないときにファンを無駄に動作させることを防止できるという効果(【0009】)は,損なわれることになる。
そうすると,引用発明におけるフロートスイッチ14の「第1の基準位置H1における接点」を,引用例2に記載された技術事項である,「一定の水位」を検知する構成に置き換えることには,阻害要因があるというべきである。」
シャープ、ダイニチ工業
(知財高裁4部高部判事、平成28年10月26日)
(2016.11.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-11-28 21:37
| 特許裁判例
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