2016年 12月 16日
特許 平成27年(行ケ)10150号 炭酸飲料事件 |
◆炭酸飲料の発明の進歩性が問題となった事件。進歩性有り。
【進歩性、数値限定、食品関連、記載要件、実施可能要件、サポート要件、訂正】
(進歩性)
「ウ 本件訂正発明は,果汁等の植物成分と炭酸ガスの両者を含有する飲料であって,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスの爽やかな刺激感(爽快感)をバランス良く備えた植物成分含有炭酸飲料を提供することを課題とし,10~80重量%の植物成分と2ガスボリュームより多い炭酸ガスを含む処方において,高甘味度甘味料であるスクラロースを特定の割合で配合して可溶性固形分含量を特定量以下に抑えることにより,口当たりが重くなり過ぎず,また刺激が強くなり過ぎずに,所期の目的が達成できることを見出したことに基づいて完成したものであり,かくして得られる植物成分含有炭酸飲料は,比較的多くの植物成分と炭酸ガスを含有しながらも,口当たりが重たくなり過ぎず,また刺激が強くなり過ぎずに,植物成分の豊かな味わいと炭酸ガスによる適度な刺激によって爽やかで清涼感のある飲み心地を有しているという効果を奏するものである。
…略…
甲10~13には,同数値範囲を形式上包含する果汁入り炭酸飲料が記載又は示唆されている(前記(3)カ(イ),同キ(イ),同ク(ア),同ケ)。
しかし,甲10において,本件訂正発明1の可溶性固形分含量の数値範囲を満たす実施例1(前記(3)カ(ウ))には,レモン果汁0.5重量%のものしか記載されておらず,甲11には,「本発明のベースとなる飲料のブリックスは,…好ましくは10~18,より好ましくは12~16とするのが適当である。」(前記(3)キ(イ))と記載され,むしろ8度より大きい可溶性固形分含量が推奨されており,甲12には,「…更に必要に応じて,嗜好性の向上及び商品価値の付与の目的で,…果汁を添加することができる。」(前記(3)ク(イ))と記載されているのみで,果汁の添加量は具体的に記載されておらず,実施例(前記(3)ク(ウ)(エ))においても,8度より大きい可溶性固形分含量のものしか記載されていない。甲13においては,紫蘇の搾汁ではなく紫蘇抽出液が用いられており,また,紫蘇抽出液を得るために使用する紫蘇葉の使用量として25~45g/1000ml,つまり,2.5~4.5重量%の紫蘇葉の使用量が,嗜好性の良好な範囲として示されている(前記(3)ケ)。
以上からみて,果汁が10%以上含まれた炭酸飲料の可溶性固形分含量を屈折糖度計示度で4~8度の数値範囲とすることは,甲2,3,5~7及び10~13の何れにも具体的に記載されてはおらず,本件優先日前から周知のものであったとまではいえない。また,甲1~3,5~7及び10~13の何れにも,可溶性固形分含量を操作することで,植物成分の風味と炭酸の刺激感(爽快感)のバランスを調整することが可能であると記載又は示唆されているわけではない 。
したがって,19.8~22.0重量%の果汁入り炭酸飲料である甲1発明において,植物成分の風味と炭酸の刺激感(爽快感)をバランス良く備えた炭酸飲料を提供するために,可溶性固形分含量を「4~8度」に調整することは,当業者が容易に想到し得ることとまではいえない。
(ウ) 以上によれば,甲1発明において,たとえ,前記(ア)のとおり,炭酸ガスの含有量を2ガスボリュームより多く含むものとすることを当業者が適宜なし得ることとしても,植物成分の風味と炭酸の刺激感(爽快感)をバランス良く備えた炭酸飲料を提供するという周知の課題を達成するために,相違点2(可溶性固形分含量が屈折糖度計示度で4~8度である)に係る課題解決手段を採用することを当業者が容易に想到し得るとまではいえない。すなわち,本件訂正発明1の相違点2(可溶性固形分含量が屈折糖度計示度で4~8度である)に係る課題解決手段は,甲1発明及び周知慣用技術に基づいて当業者が容易に想到し得ることとはいえない。 」
ジェイケー スクラロース 、三栄源エフ・エフ・アイ
(知財高裁3部鶴岡判事、平成28年12月6日)
(2016.12.16. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2016-12-16 21:42
| 特許裁判例
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