2017年 01月 18日
特許 平成27年(行ケ)10239号 船舶無効審判審決取消訴訟事件 |
◆船舶の特許に関し、訂正が実質上特許請求の範囲を拡張・変更するものか否か等が争点となった事件。訂正要件満たす。
【訂正、訂正要件、目的要件、訂正新規事項、実質的拡張変更、規範基準、新たな構成要素の追加、間接侵害との関係、課題の追加↔間接侵害の成立範囲の拡大、特101条】
(実質的拡張変更 -規範-)
「 (1) 特許法は,特許無効審判において願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正を請求することを認める一方(134条の2第1項本文),その訂正は,特許請求の範囲の減縮(同項ただし書1号)を含む所定の事項を目的とするものに限って許されるものとし,さらに,「実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものであってはならない」としている(134条の2第9項,126条6項)。
これは,訂正を認める旨の審決が確定したときは,訂正の効果は特許出願の時点まで遡って生じ(134条の2第9項,128条),しかも,訂正された明細書,特許請求の範囲又は図面に基づく特許権の効力は不特定多数の一般第三者に及ぶものであることに鑑み,特許請求の範囲の記載に対する一般第三者の信頼を保護することを目的とするものであり,特に,134条の2第9項で準用する126条6項の規定は,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなると,第三者にとって不測の不利益が生じるおそれがあるため,そうした事態が生じないことを担保する趣旨の規定であると解される。
また,特許権を侵害するものとみなされる行為(101条1号ないし6号)の範囲が訂正によって異なるものとなり,訂正前は特許権を侵害するものとはみなされなかった第三者の行為が,訂正後は特許権を侵害するものとみなされることになれば,特許請求の範囲の記載を信頼する一般第三者の利益を害することは明らかであるから,そのような訂正は,134条の2第9項で準用する126条6項の規定の趣旨に反するというべきである。
そこで,134条の2第9項で準用する126条6項の規定の趣旨や,平成6年法律第116号による特許法の改正は,あらゆる発明について目的,構成及び効果の記載を求めるのではなく,技術の多様化に対応した記載を可能とし,併せて制度の国際的調和を図ることを目的として,同法律による改正前の特許法36条4項が発明の詳細な説明の記載要件として規定していた「発明の目的,構成及び効果」を削除したにとどまり,同法126条2項の実質上特許請求の範囲を拡張・変更する訂正の禁止の規定は,実質的改正はされていないこと(甲60)を踏まえて,以下,検討する。 」
(あてはめ)
「 (4) これに対し,訂正事項1は,①「バラスト水処理装置」によって「バラスト水中の微生物類を処理して除去または死滅させる」時期を,「バラスト水の取水時または排水時」という択一的な記載から「バラスト水の取水時」という限定的な記載に変更し(構成要件A),②「バラストタンク」及び「バラスト水配管系統に設けられ,機関室に設置されたバラストポンプ」についての記載を追加し(構成要件A),③構成要件Bないし構成要件Eについての記載を追加し,さらに,④「緊急時に前記バラスト水処理装置からバラスト水を船外に排水できるように構成する」との記載を追加する(構成要件G)ものであり,それによって「船舶」の発明である本件発明1を限定し,同じく「船舶」の発明である本件訂正発明1とするものである。
これらのうち,①バラスト水処理装置へのバラスト水の供給時期が択一的であったものを1つの時期に限定した点は,本件発明1に新たな構成を付加するものではなく,本件発明1の課題に含まれない新たな課題を解決するものではないことは明らかである。
…略…
(5) また,本件発明1及び本件訂正発明1は,物の発明であるが,訂正事項1の内容からすれば,特許法101条1号及び3号の間接侵害の成立範囲が訂正事項1により左右されることはおよそ考え難い。
原告らは,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がる可能性があり,具体的には,訂正事項1により追加された配管構造等に関し,これを生産する等の行為について同条2号の間接侵害が成立するおそれがあると主張するが,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がるものとは認められない。すなわち,同条2号の間接侵害は,発明の対象である「物の生産に用いる物」のうち「その発明による課題の解決に不可欠なもの」に限って成立するものであり,その成立範囲は,その発明の構成要件中の本質的部分を実現するために不可欠な部品に限られるというべきであるが,前記(4)のとおり,訂正事項1により,本件発明1の課題に含まれない新たな課題が,本件訂正発明1の課題となったものとは認められない。したがって,たとえ原告ら主張の本件バラスト水配管系統等を現実的に想定できたとしても,訂正事項1が,本件訂正発明1の課題に本件発明1の課題と異なる新たな課題を追加するものではない以上,その課題の解決に不可欠なものの範囲,すなわち,その発明の構成要件中の本質的部分を実現するために不可欠な部品の範囲も,本件訂正発明1と本件発明1とで異なるものではないというべきであるから,訂正事項1により同条2号の間接侵害の成立範囲が広がるものとは認められない。
(6) そして,以上の検討は,訂正事項10についても同様に当てはまる。 以上によれば,訂正事項1及び10に係る本件訂正は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではないと認められる。これと同旨の審決の判断は正当であり,取消事由3は,理由がない。 」
ジャパンマリンユナイテッド、川崎重工業ほか、三菱重工業、日立製作所ほか
(知財高裁2部清水判事、平成28年12月26日)
(2017.1.18. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-01-18 19:12
| 特許裁判例
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