2017年 01月 24日
特許 平成28年(ネ)10046号 オキサリプラチン大合議事件(延長された特許権の効力) |
◆延長された特許権の効力が、政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された当該医薬品のみならず,実質同一なものにも及ぶか否かが争点となった事件(均等の範囲は?)。実質同一まで及ぶ(均等までは及ばない)。
【存続期間の延長、特許法67条2項、特許法68条の2、効力範囲、実質的同一物に及ぶか?、オキサリプラティヌム、知財高裁大合議、ベバシズマブ最高裁判決、抗ガン剤】
(効力範囲について)
「(2) 法68条の2の「政令で定める処分の対象となつた物」に係る特許発明の実施行為の範囲について
… そうすると,まず,前記のとおり,医薬品の承認に必要な審査の対象となる事項は,「名称,成分,分量,用法,用量,効能,効果,副作用その他の品質,有効性及び安全性に関する事項」であり,これらの各要素によって特定された「品目」ごとに承認を受けるものであるから,形式的にはこれらの各要素が「物」及び「用途」を画する基準となる。
もっとも,特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨からすると,医薬品としての実質的同一性に直接関わらない審査事項につき相違がある場合にまで,特許権の効力が制限されるのは相当でなく,本件のように医薬品の成分を対象とする物の特許発明について,医薬品としての実質的同一性に直接関わる審査事項は,医薬品の「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」である(ベバシズマブ事件最判)ことからすると,これらの範囲で「物」及び「用途」を特定し,延長された特許権の効力範囲を画するのが相当である。
そして,「成分,分量」は,「物」それ自体の客観的同一性を左右する一方で「用途」に該当し得る性質のものではないから,「物」を特定する要素とみるのが相当であり,「用法,用量,効能及び効果」は,「物」それ自体の客観的同一性を左右するものではないが,前記のとおり「用途」に該当するものであるから,「用途」を特定する要素とみるのが相当である。 なお,医薬品医療機器等法所定の承認に必要な審査の対象となる「成分」は,薬効を発揮する成分(有効成分)に限定されるものではないから,ここでいう「成分」も有効成分に限られないことはもちろんである。
以上によれば,医薬品の成分を対象とする物の特許発明の場合,存続期間が延長された特許権は,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」についての「当該特許発明の実施」の範囲で効力が及ぶと解するのが相当である(ただし,延長登録における「用途」が,延長登録の理由となった政令処分の「用法,用量,効能及び効果」より限定的である場合には,当然ながら,上記効力範囲を画する要素としての「用法,用量,効能及び効果」も,延長登録における「用途」により限定される。以下同じ。)。
イ 上記アによれば,相手方が製造等する製品(以下「対象製品」という。)が,具体的な政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」において異なる部分が存在する場合には,対象製品は,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するということはできない。しかしながら,政令処分で定められた上記審査事項を形式的に比較して全て一致しなければ特許権者による差止め等の権利行使を容易に免れることができるとすれば,政令処分を受けることが必要であったために特許発明の実施をすることができなかった期間を回復するという延長登録の制度趣旨に反するのみならず,衡平の理念にもとる結果になる。このような観点からすれば,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の効力は,政令処分で定められた「成分,分量,用法,用量,効能及び効果」によって特定された「物」(医薬品)のみならず,これと医薬品として実質同一なものにも及ぶというべきであり,第三者はこれを予期すべきである(なお,法68条の2は,「物…についての当該特許発明の実施以外の行為には,及ばない。」と規定しているけれども,同条における「物」についての「当該特許発明の実施」としては,「物」についての当該特許発明の文言どおりの実施と,これと実質同一の範囲での当該特許発明の実施のいずれをも含むものと解すべきである。)。
したがって,政令処分で定められた上記構成中に対象製品と異なる部分が存する場合であっても,当該部分が僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異にすぎないときは,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれ,存続期間が延長された特許権の効力の及ぶ範囲に属するものと解するのが相当である。 」
(「実質同一」の類型 ①~④と例外)
「…実質同一なものに含まれる類型を挙げれば,次のとおりである。 すなわち,①医薬品の有効成分のみを特徴とする特許発明に関する延長登録された特許発明において,有効成分ではない「成分」に関して,対象製品が,政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合,②公知の有効成分に係る医薬品の安定性ないし剤型等に関する特許発明において,対象製品が政令処分申請時における周知・慣用技術に基づき,一部において異なる成分を付加,転換等しているような場合で,特許発明の内容に照らして,両者の間で,その技術的特徴及び作用効果の同一性があると認められるとき,③政令処分で特定された「分量」ないし「用法,用量」に関し,数量的に意味のない程度の差異しかない場合,④政令処分で特定された「分量」は異なるけれども,「用法,用量」も併せてみれば,同一であると認められる場合(本件処分1と2,本件処分5ないし7がこれに該当する。)は,これらの差異は上記にいう僅かな差異又は全体的にみて形式的な差異に当たり,対象製品は,医薬品として政令処分の対象となった物と実質同一なものに含まれるというべきである(なお,上記①,③及び④は,両者の間で,特許発明の技術的特徴及び作用効果の同一性が事実上推認される類型である。)。
これに対し,前記の限定した場合を除く医薬品に関する「用法,用量,効能及び効果」における差異がある場合は,この限りでない。なぜなら,例えば,スプレー剤と注射剤のように,剤型が異なるために「用法,用量」に数量的差異以外の差異が生じる場合は,その具体的な差異の内容に応じて多角的な観点からの考察が必要であり,また,対象とする疾病が異なるために「効能,効果」が異なる場合は,疾病の類似性など医学的な観点からの考察が重要であると解されるからである。 」
(均等の範囲まで及ぶ?)
「 最高裁平成10年2月24日第三小法廷判決・民集52巻1号113頁(ボールスプライン事件最判)は,…,との五つの要件(…略…)を定めている。そのため,法68条の2の実質同一の範囲を定める場合にも,この要件を適用ないし類推適用することができるか否かが問題となる。
しかし,特許発明の技術的範囲における均等は,特許発明の技術的範囲の外延を画するものであり,法68条の2における,具体的な政令処分を前提として延長登録認められた特許権の効力範囲における前記実質同一とは,その適用される状況が異なるものであるため,その第1要件ないし第3要件はこれをそのまま適用すると,法6条の2の延長登録された特許権の効力の範囲が広がり過ぎ,相当ではない。
すなわち,本件各処分についてみれば明らかなように,各政令処分によって特定される「物」についての「特許発明の実施」について,第1要件ないし第3要件をそのまま適用して均等の範囲を考えると,それぞれの政令処分の全てが互いの均等物となり,あるいは,それぞれの均等の範囲が特許発明の技術的範囲ないしはその均等の範囲にまで及ぶ可能性があり,法68条の2の延長登録された特許権の効力範囲としては広がり過ぎることが明らかである。 」
デビオファーム、藤和薬品
(知財高裁大合議、平成29年1月20日)
◆参考
・「特許権の存続期間延長登録出願の拒絶要件と 延長特許権の効力範囲」(特許研究 2016/9)
◆Memo:
・原審(平成27年(ワ)12414)や関連地裁判決(平成27年(ワ)12412)では、実質同一+均等まで効力が及ぶと判断。
「…侵害訴訟における対象物件が政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の範囲をわずかでも外れれば,存続期間が延長された特許権の効力がもはや及ばないと解するべきではなく,当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」と相違する点がある対象物件であっても,当該対象物件についての製造販売等の準備が開始された時点(当該対象物件の製造販売等に政令処分が必要な場合は,当該政令処分を受けるのに必要な試験が開始された時点と解される。)において,存続期間が延長された特許権に係る特許発明の種類や対象に照らして,その相違が周知技術・慣用技術の付加,削除,転換等であって,新たな効果を奏するものではないと認められるなど,当該対象物件が当該政令処分の対象となった「(当該用途に使用される)物」の均等物ないし実質的に同一と評価される物(以下「実質同一物」ということがある。)についての実施行為にまで及ぶと解するのが合理的であり,特許権の本来の存続期間の満了を待って特許発明を実施しようとしていた第三者は,そのことを予期すべきであるといえる。」(平成27年(ワ)12414、東京地裁29部嶋末裁判長)
(2017.1.24. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-01-24 18:55
| 特許裁判例
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