2017年 01月 31日
特許 平成28年(行ケ)10080号 繊維ベール製造方法事件 |
◆クレームの「0~25%広げるように」の文言の明確性が問題となった事件。審決では「0」を含まないとしたが、高裁では「0」を含むとしたうえで明確性要件も満たすと判断。
【無効審判、審決取消訴訟、記載要件、明確性、実施可能要件/サポート要件、クレーム中の効果的記載、分割要件、 進歩性、数値範囲の下限、0ゼロ】
(明確性)
「 2 取消事由1(明確性要件に関する判断の誤り)について
本件発明の構成要件Eは,「高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を高さにして0~25%広げるように圧力を除去する工程であって,これにより広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程」と規定するものであるが,この文言は,高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を,高さにして,「0~25%」の範囲で「広げるように圧力を除去する工程」であって,これにより「0~25%」の範囲に「広がった高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料を形成する工程」との意義と解されるところ,「0~25%」が「0%」を含むことは,特許請求の範囲の記載から一義的に明らかである。この特許請求の範囲の記載の趣旨は,前記1(1)の認定事実によれば,高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料の高さを,圧力除去した工程(繊維材料形成工程)において,圧縮前の「0~25%」の範囲に広げるということであって,要するに,圧力の除去後,広がらない場合も含まれるが広がる場合には25%以下とすることを規定した点に技術的意義があるものと解される。もっとも,高圧縮された繊維材料が,その圧力の除去後に広がることは技術的に当然といえるが,圧力除去後短時間であれば広がらない状態も想定され,現に,本件発明の実施例において,「プレスから出た直後」の高さが「0cm」であることは,このような状態を示しているものと認められる。したがって,本件発明の上記記載に不明瞭な点はなく,当業者は,構成要件Eについて,「0%広げる」というような矛盾した記載と理解するものではない。
原告は,本件明細書によれば,高圧縮繊維材料12を高さにて広げることが必須要件であると主張するが,本件明細書には,「本発明の繊維ベールを製造する方法は,次の工程を含む。…(3)プレスにより前記繊維材料を圧縮する,(4)これによって高圧縮された六面体繊維材料を形成する,(5)高圧縮された六面体材料を包装材料で包装する…」(【0011】),「凸型表面20は,高圧縮六面体繊維材料12上の一時的な凹型表面を生成する。これは,高圧縮六面体材料の内部圧力のために短い時間の間に消滅し,これによって繊維ベール10を製造する。」(【0019】),「高圧縮繊維材料12が高さにして約0~約25%広がるのを許すように圧力を除去する。」(【0020】)との記載が認められるだけであり,圧力除去工程(繊維材料形成工程)において,高圧縮されたセルロースアセテートの繊維材料の高さが0%を超えて広げな ければならないことが必須であるとする記載は見当たらない。
原告の上記主張は採用することができない。
以上のとおりであり,構成要件Eが「0%」を含まないとした審決の明確性要件に関する判断の過程には,誤りがあるが,明確性要件を充足するとした結論においては正当であるから,この誤りに基づき審決を取り消すべきものではない。 」
(実施可能要件)
「…原告は,凸部プラテンの凸部の高さが約5cmのときの48時間後の繊維ベールの湾曲の高さが3cmであるならば,凸部プラテンの高さが1cmのときのそれは3cmを超えるから,平坦プラテンによって圧縮されたときの48時間後の繊維ベールの湾曲の高さ6cmの50%以下になっておらず,構成要件Aを充足する場合で構成要件Hを充足する場合が本件明細書に示されていないと主張する。
しかしながら,本件発明1は,構成要件A~構成要件Gの各構成を適宜調整することにより構成要件Hの効果を奏するとする発明であるから,構成要件Aで限定する数値を変更すれば,それに伴い,構成要件B~Gの各構成もその規定する範囲内で適宜変更する必要が生じ得る。したがって,仮に,構成要件Aの規定する凸部プラテンの凸部の高さを変更し,他の条件をそのままにした場合に構成要件Hの効果を奏しない事例が生じたからといって,本件発明1がサポート要件や実施可能要件を欠くと見るべき理由はない。」
ダイセル、セラニーズ アセテート
(知財高裁2部清水判事、平成29年1月24日)
◆Memo:
・数値範囲の下限が「0」の場合の明確性の問題。
・クレームに効果に関する記載を入れることによる、実施可能要件の判断への影響。
(2017.1.30. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-01-31 12:15
| 特許裁判例
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