2017年 02月 28日
特許 平成28年(行ケ)10039号 医療用複室容器審決取消訴訟事件 |
◆医療用の容器について進歩性の有無が争点となった事件。知財高裁でも進歩性なしと判断。
【進歩性、動機付け、滅菌、医療用容器、周知技術】
ア 引用発明のような医療用容器の滅菌等については,滅菌法と無菌操作法とがあり,無菌医薬品を製造する場合,医薬品を最終容器に充てんした後滅菌する方法である最終滅菌法を適用するが,最終滅菌法を適用できない医薬品については,無菌操作法を用いる(甲41の1,乙5)。滅菌法には,加熱法,ろ過法,照射法,ガス法及び薬液法があり,加熱法の中には高圧蒸気滅菌法がある(乙3)。2室容器入り栄養輸液製剤においては,あらかじめ加熱滅菌された各液を各室に無菌的に収容することもできるが,より好ましくは各室にそれぞれの輸液を収容後,高圧蒸気
滅菌等で加熱滅菌する(乙4),注射剤を製造するに当たって,注射剤成分が耐熱性などを持たず,高圧蒸気滅菌を施せない場合にはろ過滅菌を行うが,高圧蒸気滅菌が可能な場合には高圧蒸気滅菌による最終滅菌を行う(乙5),注射剤を製造するに当たって,通常は,ろ過後に容器に充てんして加熱滅菌を行い,検査・包装されて製品とするが,加熱すると有効成分の劣化が起こるものや,懸濁注や用時溶解して使用する注射剤は,最終加熱滅菌ができないので無菌操作法で製造する(乙6)など,薬液入りの医療用容器を製造するに当たっては,可能な場合には,高圧蒸気滅菌による最終滅菌が行われるものと認められる。
そして,前記(1)のとおり,甲8の2には,引用発明では,本件空間部には全く水分がないため,高圧蒸気滅菌を行ってもこの空間内部及び注排口内部は滅菌することはできない,という課題が記載されているから,甲8の2に接した当業者は,引用発明のような本件空間部を有する構成では,当該空間部に水分がないため滅菌できないとする課題を把握することができる。
イ これに対して,原告は,甲8の2は,「本件空間部には全く水分がないため,高圧蒸気滅菌を行ってもこの空間内及び注排口内部は滅菌ることができない。」という引用発明の課題を解決しているから,甲8の2から引用発明に周知技術を組み合わせる動機付けがあるということはできない,と主張する。
しかし,甲8の2では,注排口を改良することによって,本件空間部に水分がないため空間内及び注排口内部を滅菌することができないという課題と,本件空間部に水分を入れようとする場合の問題点を,同時に解決したものであるところ,課題の解決方法は1つとは限らないし,甲8の2で引用発明の課題を解決していることによって,引用発明の課題自体を認識できなくなるわけではないから,認識した課題を別の方法で解決しようという動機までもがなくなるものではない。
よって,原告の主張には,理由がない。 」
テルモ
(知財高裁2部清水判事、平成29年2月23日)
(2017.2.28. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-02-28 13:14
| 特許裁判例
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