2017年 03月 16日
特許 平成27年(ワ)4376号 凝集剤特許契約錯誤無効事件 |
◆特許権売買や技術提供に関する1億5千万円の契約につき錯誤による無効が認められた事件。
【契約、錯誤無効、民法95条、動機の表示、重過失、売買代金請求事件】
(錯誤無効)
「(3) そこでさらに検討を進めると,動機の錯誤により本件契約が無効であるというためには,その動機が表示されて法律行為の内容になっているとともに,その錯誤が法律行為の要素に関する錯誤であることが必要である。
この点につき本件についてみると,本件契約締結交渉の詳細は明らかではないものの,本件特許権だけでなく事業実施のための技術提供をすることを債務の内容とすることからすると,当事者間では事業実施のためには本件特許権が必要であることを前提として交渉されていたものと認められ,また本件契約の対価の相当性は,事業に独占的利益をもたらせる本件特許権の価値によって決定されていたと認められるから,本件契約締結の意思表示の際,原告から技術提供を受けて特許権による独占的地位に基づく事業を営むことを目的に本件特許権を取得することを必要とし,まただからこそ,主に本件特許権の価値を前提に本件契約に高額の対価を支払う必要があると考えたという被告P2の動機は,原告に対して表示されていたものと認められる。また,上記のような前提のもと,被告P3を介して本件特許権の売却交渉をして本件契約締結に至った原告においても,被告の本件契約締結の動機は当然認識されていたといえるから,上記動機は双方の法律行為の内容となっていたものと認められる。
しかし,本件契約に関連して原告が被告P2に対し,同人の事業準備のため提供していた技術内容は,本件特許発明では必須の構成要件となっている,カーバイトスラリーを800℃ないし1300℃で焼成するという工程が省略されたものであり,本件特許権の効力が及ばないものである。原告は,この焼成工程を経ない乾燥カーバイトスラリーを用いてする凝集剤の製造方法は,本件特許発明を改善進歩したより良いノウハウであり,焼成工程の採否はコストの問題にすぎないようにいうが,少なくとも焼成工程を省略した凝集剤の製造方法に本件特許権の効力が及ばないことは明らかである。また,焼成工程の採否が原告のいうようにコストの問題にすぎないというのなら,そもそも被告P2は凝集剤の製造事業を営むに当たって本件特許権を取得する必要さえなかったことになるから,これらの点からすると,そのような権利取得を主な目的として,原告の提示額を基礎に(上記 1(6)),1億5000万円の対価を支払う義務が生じることになる本件契約締結を必要と判断した被告P2に錯誤があることは明らかである。
そして,本件契約が対価を1億5000万円とすることの相当性をさておき,少なくとも本件特許権の価値がその対価決定の主要な部分であることは明らかであるから,本件特許権を取得して営む凝集剤の製造事業に本件特許権が不可欠であることは本件契約の主要な部分であるといえ,その点につき上記のような錯誤がなければ被告P2が高額の対価支払を約してまで本件契約締結の意思表示をしたとは考えられないし,また通常人も同様と考えられるから,被告P2の上記錯誤は法律行為の要素についての錯誤であるということができる。 したがって,本件契約は,被告P2がした本件契約締結の意思表示に錯誤があることにより無効というべきことになる。 」
(大阪地裁21部森崎裁判長、平成29年1月24日)
(2017.3.16. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-03-16 22:00
| 民法・民事訴訟法
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