2017年 04月 21日
特許 平成28年(ワ)20818号 連続貝係止具事件(侵害訴訟) |
◆貝をつり下げる道具の特許権侵害が争点となった事件。技術的範囲に属する、無効理由無し、侵害。
【技術的範囲、特許法70条、無効理由、104条の3、進歩性(技術分野は共通but異なる/想定されていない課題)、動機付け、分割出願、侵害訴訟、差止、貝吊り下げ具事件、意匠権、前訴の和解の効力、和解製品と異なる製品】
(進歩性)
「 b 以上によれば,乙22公報には,連続貝係止具について,平行に配列された基材同士を連結する構成として,①基材の上下に突設されたロープ止め突起同士を連結する構成,②基材の上部に突設されたロープ止め突起と基材とを連結する構成,③ロープ止め突起の先端を基材と連結すると共に,更に可撓性連結材によって基材同士を連結する構成が,それぞれ開示されており,また,④前記③の場合において,2本の可撓性連結材は,ロープ止め突起と一体成型されており,2本の可撓性連結材による連結箇所を,ロープ止め突起からみて軸方向内側とする構成が開示されているものと認められる。
したがって,乙22公報に開示された基材の連結に関する構成のうち,上記④の構成から,殊更,可撓性連結材がロープ止め突起と一体成型されているとの部分を捨象して,2本の可撓性連結材による連結箇所をロープ止め突起からみて軸方向内側とするとの構成のみを取り出した上,これを引用発明に組み合わせれば,相違点1に係る本件発明1の構成に至るとはいえる。
c ここで,乙20公報及び乙22公報は,いずれも連続貝係止具に係る発明が記載されたものであり,両者の技術分野は共通するものではある。しかしながら,前記1(3)でみたとおり,本件発明1は,構成要件1Aないし同1Hの構成を備えることにより,貝係止具を一本ずつ切断するときに可撓性連結材の一部が切り残し突起となって基材に残って突出しても,貝係止具を手で持って貝へ差し込むときに手(指)が切り残し突起に当たらないため手が損傷したり,薄い手袋を手に嵌めて作業しても手袋が破れたりしにくいとの効果を奏するものであるところ,かかる作用効果に対応する課題(可撓性連結材を切断した際に突出して残る切り残し突起が,作業時に作業者の手に当たり,怪我をしたり手袋が破れたりするとの課題)については,乙20公報及び乙22公報のいずれにおいても記載されておらず,その示唆もない。また,かかる課題が本件特許の原出願日において周知の課題であったことを認めるに足りる証拠もなく,上記課題が自明のものと認めるべき事情も見いだせない。
そうすると,当業者といえども,乙20公報及び乙22公報に接することにより上記課題を意識することができたとはいえないから,当該課題を解決するために,乙22公報に開示された基材の連結に関する構成から,2本の可撓性連結材による連結箇所をロープ止め突起からみて軸方向内側とするとの構成のみを取り出した上,これを引用発明に組み合わせる動機付けがあるとは認められないというべきであり,本件証拠を検討しても,上記組合せに想到する動機付けとなるべき他の事情も見当たらない。また,かかる事情に照らせば,可撓性連結材による連結位置を当業者において適宜選択し得たとか,これらが設計的事項にすぎないなどということもできない。 」
(和解の効力)
「… 以上のとおり,前訴和解は,原告と被告らとの間において,具体的な形体を有する和解製品について,(当時は出願段階にあった)本件特許権を含む知的財産権の行使をしない旨が約されたにとどまるというほかないところ,被告各製品は,可撓性連結材の形状及びこれと基材との連結態様において,和解製品と異なる構成を有することは,前記前提事実(別紙3を含む。)のとおりであるから,被告らによる被告各製品の製造販売等に対する原告の本件特許権の行使が,前訴和解の効力により否定されるということにはならない。
したがって,被告らの主張は採用することができない。 」
むつ家電特機、シンワ
(東京地裁29部嶋末裁判長、平成29年4月19日)
(2017.4.20. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-04-21 20:19
| 特許裁判例
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