2017年 04月 26日
特許 平成28年(行ケ)10106号 ニコチン送達装置事件(進歩性、審決取消訴訟) |
◆タバコ代替品についての発明の進歩性が争点となった事件。進歩性なし。
【進歩性、特許法29条2項、動機付け、”有利な効果”の比較対象、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟】
(容易想到性の判断)
「カ 引用発明1に引用発明2を適用する動機付け
以上のとおり,引用発明1も,引用発明2も,蒸発(揮発)したニコチンを,肺へ送給するに当たり,好ましい送給量を実現できるよう調整するという同一の目的を有するものであり,また,タバコ代替品として用いられる装置に関するものであって同一の用途を有するものである。そして,引用発明1と引用発明2とは,ニコチン源の相違という点をもって作用が異なると評価することもできない。
よって,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けはあるというべきである。
キ 阻害事由
原告は,引用発明1の目的は,タバコ(天然物ニコチン源)の使用をやめさせることであるとして,引用発明1のニコチン源を,天然物ニコチン源とすることには阻害事由がある旨主張する。しかし,前記エのとおり,引用発明1に係る装置は,タバコをベースとした製品の代わりになるものであって,タバコ代替品としても用いられるものであるから,引用発明1の目的を,タバコの使用をやめさせることのみにあるということはできない。原告の阻害事由の主張は,その前提において誤りである。
ク 以上のとおり,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けがある。そして,相違点1に係る本願発明の発明特定事項のうち,引用発明2に「天然物ニコチン源であって,加熱されており,かつ,タバコと,アルカリ物質と,水とを含むものであり,同アルカリ物質は,炭酸水素ナトリウム又は炭酸カリウムから選択される」という構成が記載されていることは,当事者間に争いがない。さらに,引用発明1に引用発明2を適用した場合において,引用例3に記載された技術事項及び周知の技術事項を踏まえて,「天然物ニコチン源」に含まれるアルカリ物質を,相違点1に係る本願発明の特定事項とすることが当業者にとって容易であることを,原告は特段争わない。
したがって,引用発明1に,引用発明2などを適用し,相違点1に係る本願発明の構成を備えるようにすることを,当業者は容易に想到することができたというべきである。
⑵ 顕著な効果の看過について
ア 原告は,本願発明は,請求項1記載の構成を採用することにより,複数回の抽出を経ても,安定的に,ニコチンを肺に送達することができるという当業者が予測し得ない顕著な作用効果を奏すると主張する。
…略…
ウ 原告は,ニコチン源として天然物ニコチン源のみを使用した実験系と,ニコチンソースのみを使用した実験系を比較する補充追試(甲17)に基づき,前者が後者よりも,ニコチンの送達量の変動は小さいことから,本願発明の奏する効果が顕著なものであると主張する。しかし,本願発明の奏する効果が顕著なものであるか否かは,引用発明2を適用した引用発明1において予測される効果と比較すべきものであるところ,上記補充追試では,引用発明2に係る構成を備えたタバコ材は使用されていない。したがって,上記補充追試の結果に基づき,本願発明の奏する効果が顕著なものであるということはできないから,原告の前記主張は採用できない。
エ よって,本願発明の奏する効果は顕著なものとはいえないという本件審決の判断に誤りはない。 」
フィリップモーリス
(知財高裁4部高部判事、平成29年4月25日)
(2017.4.26. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-04-26 21:00
| 特許裁判例
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