2017年 05月 30日
特許 平成28年(行ケ)10061号 入退室管理システム事件(進歩性) |
◆引用発明に基づき容易想到と判断した特許庁の審決が、相違点の認定誤りを理由に取り消された事件。
【進歩性、拒絶査定不服審判、審決取消訴訟、特許法29条2項、一致点・相違点の認定】
(相違点の認定について)
「 (2) そして,上記のように相違点1´を認定した場合,仮に同相違点に係る構成(移動体の位置検出を行うために複数の起動信号発信器を出入口の一方側と他方側に設置する構成)が本件特許の出願時において周知であったとすれば,引用発明Aとかかる周知技術とは,移動体の位置検出を目的とする点において,関連した技術分野に属し,かつ,共通の課題を有するものと認められ,また,引用発明Aは,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しないものである以上,前記の周知技術を適用する上で阻害要因となるべき事情も特に存しないことになる(前記のとおり,第1図に関連する「施設の所定の部屋」を固定無線機の設置位置とする実施例の記載は,飽くまで発明の一実施態様を示したものにすぎず,そのことにより刊行物1から「施設の各部屋」を設置位置とする以外の他の態様による実施が読み取れないとはいえない。)。
したがって,以上の相違点の認定(相違点1´)を前提とすれば,上記技術分野の関連性及び課題の共通性を動機付けとして,引用発明Aに対し前記の周知技術を適用し,相違点1´に係る本件訂正発明1の構成を採ることは,当業者であれば容易に想到し得るとの結論に至ることも十分にあり得ることというべきである。
(3) ところが,本件審決は,かかる相違点を,前記第2の3(3)イ(ア)のとおり,「第1起動信号発信器が設けられる『第1の位置』及び第2起動信号発信器が設けられる『第2の位置』に関し,本件訂正発明1では,『第1の位置』が『出入口の一方側である第1の位置』であり,また,『第2の位置』が『出入口の他方側である第2の位置』であるのに対し,引用発明Aでは,『第1の位置』,『第2の位置』の各位置が施設の各部屋に対応する位置である点」(相違点1。なお,下線は相違点1´との対比のために便宜上付したものである。)と認定した上,「引用発明Aによる移動体の位置の把握は,ビルの各部屋単位での把握に留まる」と断定し,「刊行物1には,移動体の位置の把握を各部屋の出入口単位で行うこと,即ち,相違点1における本件訂正発明1に係る事項である,第1起動信号発信器が設けられる第1の位置を『出入口の一方側』とし,第2起動信号発信器が設けられる第2の位置を『出入口の他方側』とする点については,記載も示唆もない」から,他の相違点について検討するまでもなく,本件訂正発明1が刊行物1発明(引用発明A)から想到容易ではないと結論付けたものである。
これは,本来,複数の固定無線機の設置位置を特定(限定)しない(「施設の各部屋」は飽くまで例示にすぎない)ものとして認定したはずの引用発明Aを,本件訂正発明1との対比においては,その設置位置が「施設の各部屋」に限定されるものと解した上で相違点1を認定したものであるから,その認定に誤りがあることは明らかである。
また,本件審決は,上記のように相違点1の認定を誤った結果,引用発明Aによる移動体の位置の把握が「ビルの各部屋単位での把握に留まる」などと断定的に誤った解釈を採用した上(刊行物1にはそのような記載も示唆もない。),刊行物1には相違点1に係る構成を適用する動機付けについて記載も示唆もない(から想到容易とはいえない)との結論に至ったのであるから,かかる相違点の認定の誤りが本件審決の結論に影響を及ぼしていることも明らかである。
(4) 以上によれば,原告が主張する取消事由2は理由がある。 」
マトリックス
(知財高裁3部鶴岡判事、平成29年4月12日)
(2017.5.30. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-05-30 19:48
| 特許裁判例
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