2017年 06月 20日
特許 平成28年(行ケ)10168号 スロットマシン事件(進歩性) |
◆スロットマシンの構造の発明に関し、構造そのものは引例に開示されているが技術的意義が不明確なため、主引例に組み合わせる動機付けが無いと判断された事件。進歩性肯定。
【進歩性、機械構造系、特許法29条2項、周知な構造、技術的意義が不明確な場合に主引例に組合せ可能か?、動機付け】
(容易想到性)
「 (カ) 検討
以上によれば,原告が,「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける構成」が記載されているものとして挙げる文献のうち,甲1及び63については,そもそもそのような構成が記載されているとはいえない(なお,仮に,原告主張のとおり,甲1及び63に上記構成が記載されていることを認めたとしても,これらの文献には,甲16及び17と同様に当該構成が採用される理由についての記載や示唆はないから,後記の結論に変わりはない。)。
他方,甲16及び17には,上記構成が記載され,また,審判検甲1及び2のパチスロ機も上記構成を有することが認められる。しかしながら,これらの文献の記載や本件審判における審判検甲1及び2の検証の結果によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理由は明らかではなく,結局のところ,当該構成の目的,これを採用することで解決される技術的課題及びこれが奏する作用効果など,当該構成に係る技術的意義は不明であるというほかはない。
してみると,甲16及び17の記載や審判検甲1及び2の存在から,上記構成がスロットマシンの分野において周知な構成であるとはいえるとしても,その技術的意義が不明である以上,当業者がこのような構成をあえて甲1発明に設けようと試みる理由はないのであって,甲1発明に当該周知な構成を適用すべき動機付けの存在を認めることはできない。
したがって,甲1発明に上記周知な構成を適用し,相違点3-2に係る構成とすることは,当業者が容易に想到し得たこととはいえない。
イ 原告の主張について
原告は,以下のとおり,甲1発明に「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける」構成を適用することの動機付けの存在に関わる主張をするが,いずれも採用の限りではない。
(ア) 原告は,係止爪を有する係止片を挿入口に挿入して部材を係止する構成では,当業者は,取付作業の容易性(周辺の他の部材との干渉がないことなど),取付け後の見栄え(取付け後に表側から係止片や挿入口が見えないようにすること)を考慮して,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設けることを検討するのが通常である旨主張する。
しかし,部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設けることにより,取付作業が容易になったり,取付け後の見栄えがよくなったりすることを認めるに足りる証拠はなく,当業者がそうすることを検討するのが通常であることを示す証拠もない。
したがって,原告の上記主張は採用できない。 (イ) 原告は,「部材を取り付けるための係止片を当該部材の最外周面よりも少し内側に設ける」構成は,取付けにおいて双方の部材間に隙間が生じることを防ぐ構成であると容易に理解されるから,不正行為の防止がパチスロ機等の技術分野において周知の課題であるなか,上記構成を針金等による不正行為の防止のために採用することは当業者が容易に想到し得たことである旨主張する。
しかし,前記ア(カ)で述べたとおり,上記構成についての記載が認められる甲16及び17の記載や上記構成を有する審判検甲1及び2の検証結果(甲61)によっても,これらの装置等において上記構成が採用されている理由は明らかではなく,その技術的意義は不明なのであって,上記構成について,「取付けにおいて双方の部材間に隙間が生じることを防ぐ構成であると容易に理解される」などと断じ得る根拠はなく,針金等による不正行為の防止のために上記構成を採用することを当業者が容易に想到し得たものと断ずべき根拠もない。
したがって,原告の上記主張も採用できない。
ウ 小括
以上のとおり,相違点3に係る本件特許発明1の構成のうち,相違点3-2に係る構成は,甲1発明に原告主張の周知な構成を適用することにより当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
してみると,本件審決が相違点3に係る本件特許発明1の構成の容易想到性を否定したことに誤りがあるとはいえない。 」
日本電動式遊技機特許株式会社、三共
(知財高裁3部鶴岡判事、平成29年6月12日)
(2017.6.20. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-06-20 13:01
| 特許裁判例
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