2017年 06月 21日
特許 平成28年(行ケ)10037号 液晶組成物事件(相違点の認定) |
◆選択発明の特許性が争われた事件。審決は本願発明の技術的意義を正しく検討しておらず、審決取消し。
【特許法29条1項3号、無効審判、審決取消訴訟、上位概念、下位概念、選択発明、異質な効果/顕著な特有の効果、一致点相違点の認定、技術的意義の検討、個別的、全体的、塚原元判事】
(規範)
「4 特許性の有無について
(1) 特許に係る発明が,先行の公知文献に記載された発明にその下位概念として包含されるときは,当該発明は,先行の公知となった文献に具体的に開示されておらず,かつ,先行の公知文献に記載された発明と比較して顕著な特有の効果,すなわち先行の公知文献に記載された発明によって奏される効果とは異質の効果,又は同質の効果であるが際立って優れた効果を奏する場合を除き,特許性を有しないものと解するのが相当である 。 」
(あてはめ)
「(3) 本件審決の判断の妥当性
本件発明1は,甲1発明Aにおいて,3種類の化合物に係る前記①ないし③の選択及び「塩素原子で置換された液晶化合物」の有無に係る前記④の選択がなされたものというべきであるところ,証拠(甲42)及び弁論の全趣旨によれば,液晶組成物について,いくつかの分子を混ぜ合わせること(ブレンド技術)により,1種類の分子では出せないような特性を生み出すことができることは,本件優先日の時点で当業者の技術常識であったと認められるから,前記①ないし④の選択についても,選択された化合物を混合することが予定されている以上,本件発明の目的との関係において,相互に関連するものと認めるのが相当である。
そして,本件発明1は,これらの選択を併せて行うこと,すなわち,これらの選択を組み合わせることによって,広い温度範囲において析出することなく,高速応答に対応した低い粘度であり,焼き付き等の表示不良を生じない重合性化合物含有液晶組成物を提供するという本件発明の課題を解決するものであり,正にこの点において技術的意義があるとするものであるから,本件発明1の特許性を判断するに当たっても,本件発明1の技術的意義,すなわち,甲1発明Aにおいて,前記①ないし④の選択を併せて行った際に奏される効果等から認定される技術的意義を具体的に検討する必要があるというべきである。
ところが,本件審決は,前記のとおり,前記①の選択と,同②及び③の選択と,同④の選択とをそれぞれ別個に検討しているのみであり,これらの選択を併せて行った際に奏される効果等について何ら検討していない。このような個別的な検討を行うのみでは,本件発明1の技術的意義を正しく検討したとはいえず,かかる検討結果に基づいて本件発明1の特許性を判断することはできないというべきである。
以上のとおり,本件審決は,必要な検討を欠いたまま本件発明1の特許性を否定しているものであるから,上記の個別的検討の当否について判断するまでもなく,審理不尽の誹りを免れないのであって,本件発明1の特許性の判断において結論に影響を及ぼすおそれのある重大な誤りを含むものというべきである。
したがって,本件発明1の特許性に関する本件審決の判断は妥当でない。 」
DIC、JNC
(知財高裁3部鶴岡判事、平成29年6月14日)
(2017.6.21. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-06-21 21:24
| 特許裁判例
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