2017年 08月 22日
商標 平成25年(ワ)31446号 エルメスバーキン事件(侵害訴訟)【少し古い】 |
/一部修正 再掲/
【立体的商標、立体商標、侵害訴訟、商標の類否判断、出所の混同、価格の差、不正競争防止法、2条1項1号、2条1項2号、周知著名な商品等表示】
(立体商標の類否判断 -規範-)
「(1) 商標と標章の類否は,対比される標章が同一又は類似の商品・役務に使用された場合に,商品・役務の出所につき誤認混同を生ずるおそれがあるか否かによって決すべきであるが,それには,そのような商品・役務に使用された標章がその外観,観念,称呼等によって取引者,需要者に与える印象,記憶,連想等を総合して全体的に考察すべく,しかもその商品・役務の取引の実情を明らかにし得る限り,その具体的な取引状況に基づいて判断すべきものである。そして,商標と標章の外観,観念又は称呼の類似は,その商標を使用した商品・役務につき出所の誤認混同のおそれを推測させる一応の基準にすぎず,したがって,これら3点のうち類似する点があるとしても,他の点において著しく相違することその他取引の実情等によって,何ら商品・役務の出所の誤認混同をきたすおそれの認め難いものについては,これを類似の標章と解することはできないというべきである(最高裁昭和39年(行ツ)第110号同43年2月27日第三小法廷判決・民集22巻2号399頁,最高裁平成6年(オ)第1102号同9年3月11日第三小法廷判決・民集51巻3号1055頁参照)。
原告商標は立体商標であるところ,上記類否の判断基準は立体商標においても同様にあてはまるものと解すべきであるが,被告標章は一部に平面標章を含むため,主にその立体的形状に自他商品役務識別機能を有するという立体商標の特殊性に鑑み,その外観の類否判断の方法につき検討する。 立体商標は,立体的形状又は立体的形状と平面標章との結合により構成されるものであり,見る方向によって視覚に映る姿が異なるという特殊性を有し,実際に使用される場合において,一時にその全体の形状を視認することができないものであるから,これを考案するに際しては,看者がこれを観察する場合に主として視認するであろう一又は二以上の特定の方向(所定方向)を想定し,所定方向からこれを見たときに看者の視覚に映る姿の特徴によって商品又は役務の出所を識別することができるものとすることが通常であると考えられる。そうであれば,立体商標においては,その全の形状のみならず,所定方向から見たときの看者の視覚に映る外観(印象)が自他商品又は自他役務の識別標識としての機能を果たすことになるから,当該所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似する場合には,原則として,当該立体商標と当該平面商標との間に外観類似の関係があるというべきであり,また,そのような所定方向が二方向以上ある場合には,いずれの所定方向から見たときの看者の視覚に映る姿にも,それぞれ独立に商品又は役務の出所識別機能が付与されていることになるから,いずれか一方向の所定方向から見たときに視覚に映る姿が特定の平面商標と同一又は近似していればこのような外観類似の関係があるというべきであるが,およそ所定方向には当たらない方向から立体商標を見た場合に看者の視覚に映る姿は,このような外観類似に係る類否判断の要素とはならないものと解するのが相当である。
そして,いずれの方向が所定方向であるかは,当該立体商標の構成態様に基づき,個別的,客観的に判断されるべき事柄であるというべきである。 」
(当てはめ)
「…そして,この正面部から観察した場合,原告標章と被告標章とは,本体正面の形状において底辺がやや長い台形状であり,上部に,略凸状となるように両サイドに切り込みを有し,横方向に略三等分する位置に鍵穴状の縦方向の切込みを二箇所有する蓋部が表示されていること,前記蓋部上に,前記略凸状の両サイドの切り込みから本体正面中央まで延在する左右一対のベルトが表示されていること,前記蓋部の凸型部分と前記左右一対のベルトとを本体正面の上部中央にて同時に固定することができる位置に,先端にリング状を形成した固定具が表示されていること,前記鍵穴状の切込みの外側の位置において,前記蓋部の凸型部分と前記各ベルトとを同時に固定する左右一対の補助固定具が表示されていること,上部に円弧状をなす一対のハンドルが表示され,前記正面側のハンドルは前記鍵穴状の切込みを通るように表示されていること,以上の点においていずれも共通しており,原告標章と被告標章とは,所定方向である正面から見たときに視覚に映る姿が,少なくとも近似しているというべきであり,両者は外観類似の関係にあるということができる。
被告標章は,原告標章では立体的構成とされている蓋部,左右一対のベルトとこれを固定する左右一対の補助固定具,先端にリング状を形成した固定具,ハンドルの下部(正面部と重なりベルト付近まで至る部分)について,これらの質感を立体的に表現した写真を印刷して表面に貼付した平面上の構成とされているところ,これを正面から見た場合に上記共通点に係る視覚的特徴を看取できるものというべきである。
一方,上部及び側面方向から被告標章を観察した場合には,原告標章では立体的に表現された上記蓋部等が立体的でないことは看て取れるものの,上部及び側面は,いずれも所定方向には該当せず,上記所定方向から観察した場合の外観の類否に影響するものではない。
(3) そして,原告商標ないし被告標章において,何らかの観念ないし称呼が生じ,これらが著しく相違するものとも認められない。
(4) 以上によれば,被告標章は原告商標と類似しているということができ,被告につき,過失の存在の推定を覆すに足る事情も認められない(商標法39条,特許法103条)。 」
エルメス、DHS Corp
(地裁40部東海林裁判長、平成26年5月21日)
(2017.7.14. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-08-22 14:00
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