2017年 07月 20日
特許 平成28年(行ケ)10044号 赤外線センサ事件(進歩性) |
◆赤外線センサの発明に関し、周知技術適用の動機付けがなく阻害要因も認められ、進歩性有りと判断された事件。
【容易想到性、29条2項、動機付け、阻害要因、無効審判、審決取消訴訟、作用効果を失わせるような組合せ】
(動機付け&阻害要因)
「 (エ) 本件周知技術の適用
a 動機付け
本件周知技術において,光吸収層に所定の濃度のp型ドーパントを含ませるのは,光吸収層の伝導帯の電子密度を低減させるという目的のために行われるものである。
これに対し,引用発明Cは,赤外線検出器の検出能力を向上させる一つの手段として,第2の化合物半導体層と第3の化合物半導体層との間の伝導帯レベル差ΔEcに着目し,かかる観点から,第2の化合物半導体層と第3の化合物半導体層のドーピングの型やドーピング濃度を調整したものであって,また,引用発明Cの第2の化合物半導体層のドーパントはなるべく除去されたものである。
そうすると,本件周知技術が,光吸収層の伝導帯の電子密度を低減させることを課題として第2の化合物半導体層(光吸収層)にp型ドーパントを含ませるのに対し,引用発明Cは,バリア層として伝導帯レベル差ΔEを有しており,そのような課題を有しないから,光吸収層にp型ドーパントを含ませる必要がない。また,光吸収層にp型ドーパントを含ませることによって,一般的に赤外線検出器の検出能力が向上するとしても,それによって生じ得る現象を考慮することも必要であるから,当業者は,上記のような課題を有しない引用発明Cの光吸収層に,あえてp型ドーパントを含ませようとは考えない。
したがって,引用発明Cに,本件周知技術を適用する動機付けがあるということはできない。
b 阻害要因
前記⑴イ(ウ)のとおり,引用発明Cの赤外線検出器は,ワイドギャップ領域を設けることにより,すなわち,ドーパントがなるべく除去された第2の化合物半導体層と第3の化合物半導体層との間の伝導帯レベル差ΔEcを大きくとることにより,キリアの熱生成レートを非常に小さくするとともに,コンタクト部におけるキャリア生成から活性領域を隔離することによって,検出能力を向上させるというものである。
一方,本件周知技術は,光吸収層に,伝導帯の電子密度が低減する所定の濃度に至るまでp型ドーパントを含ませるというものであるところ,その場合には,第2の化合物半導体層と第3の化合物半導体層との間の伝導帯レベル差ΔEcは,p型ドーパントに相当する分だけ小さくなる。
そうすると,伝導帯レベル差ΔEcを大きくとることによって,検出能力を向上させるという引用発明Cの作用は,本件周知技術を適用することにより,阻害されることになる。
したがって,引用発明Cに,本件周知技術を適用することには阻害要因があるというべきである。 」
旭化成エレクトロニクス
(知財高裁4部高部判事、平成29年6月20日)
(2017.7.20. 弁理士 鈴木学)
by manabu16779
| 2017-07-20 13:06
| 特許裁判例
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